松岡環(まつおか・たまき)/1949年生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学)でヒンディー語を専攻、76年からインド映画の紹介を始める

社会問題を反映

「K.G.F」は、1951年から81年に至るロッキーと呼ばれた男の成り上がりぶりを描く。K.G.F=コーラーラ・ゴールド・フィールズを舞台に、並み居る金鉱マフィアを降して全権を掌握、時の女性首相を敵に回す破天荒な男の姿は、インド人観客の心を掴み、ロッキーは彼らのヒーローとなった。日本語字幕のカンナダ語監修を担当した京都大学教授池亀彩氏は、「教育は受けたけれどいい職につけない大量の若者、特に男性に受けたのではないか」と語る。

 インドのヒット作は、何らかの形で観客が抱える社会問題を反映している、と言えそうだが、そんな社会問題を正面から描く作品も9月に公開される。ドキュメンタリー映画「燃えあがる女性記者たち」(2021)である。北インドにある女性だけの新聞社「カバル・ラハリヤ(ニュースの波)」の記者たちを追ったもので、彼女たちは全員が「ダリト(抑圧された者)」と呼ばれる被差別カーストに属しているのだ。

 取材対象は、上位カーストにレイプされたダリトの主婦とその夫や、村のはずれに住まわされ、トイレもない環境に甘んじているダリトの一家、違法採石を続ける鉱山マフィアに抵抗する村人たち、ヒンドゥー至上主義にからめとられる若者等幅広いが、「メディアが人々を守る」という記者たちの信念は揺るがない。これからはデジタルメディアの時代、と慣れないスマホ操作に四苦八苦しながら、配信に挑んでいく姿は雄々しく頼もしい。

 さらに9月には、「キング・オブ・ボリウッド」と呼ばれるシャー・ルク・カーン主演のスパイ映画「PATHAAN/パターン」(2023)も公開される。日本におけるインド映画は今が旬、である。(寄稿・松岡環)

AERA 2023年8月7日号

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