撮影/今村拓馬
撮影/今村拓馬

■美しさには我慢必要

――苦労したことを尋ねると、「耐えることが多い撮影だった」と苦笑い。中でも寒さはかなり堪えたという。

前田:撮影がちょうど寒い時期だったんです。屋上の吹きさらしの中でワンピース姿でいるのは大変で、スタッフさんに温めていただきながらの撮影でした。屋上のシーンは要所要所に出てくるので、数日撮影があったんです。風と闘いながら淡々としていないといけなくて……。ただ、景色は素晴らしく映像で見てもすごくすてき。やっぱり、美しいものには我慢が必要だなと思いました(笑)。

――ドラマ「ウツボラ」は変化する女の物語でもある。俳優として、自身の変化をどのように感じてきたのだろうか。

前田:2年前に大先輩の橋爪功さんと「フェイクスピア」という舞台でご一緒し、とても仲良くしていただきました。楽屋ものれんを隣にかけさせてもらい、同じ部屋に毎日いたほどです。まるで娘とお父さんみたいな関係でした。橋爪さんは高橋一生さんとW主演のような舞台でしたから、私よりも全然せりふが多い。なのに、私のシーンを脇から毎日見て、「ここはこうしてごらん」とアドバイスをくださった。そんな中で言われた、私を成長させてくれたずっと忘れられない言葉があるんです。

 がむしゃらに飛び込んだ舞台だったんですが、なぜか肋間痛になってしまいました。声を出すとズキッと痛む。そのときに橋爪さんが楽屋で声をかけてくださった。

「敦子、お前はもう十分に人に伝わるお芝居をしてるから、今以上に声を出すな」と言われたんです。「役者というのは、役者の役をやるために生きてるのではなくて、普通に人として生きてるんだ。だから、役のために自分を駄目にしては駄目なんだよ」って。

 がむしゃらになりすぎて自分の体調の変化に気づかないことって、多分たくさんあると思うんです。頑張ることは確かに良いことではありますが、橋爪さんの言葉を聞いて、がむしゃらになりすぎるのは良くないことだなと冷静になれたんですよね。「役者も役をやるために生きるな」と言われた時に、もう少し客観的に判断できる、器用な人になりたいなって、すごく思いました。「優しい!」とも思いました。すごくまっすぐに言ってくださったその言葉にすごく感動しましたし、一生忘れないと思います。

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