26歳から担当したインドネシアへ、上司の藤木さんとも出張した。いまはトップセールスで世界中へ、エリザベス女王との謁見もあった(写真:本人提供)
26歳から担当したインドネシアへ、上司の藤木さんとも出張した。いまはトップセールスで世界中へ、エリザベス女王との謁見もあった(写真:本人提供)

 世銀での経験も、言い換えれば「それぞれが、それぞれのやり方で、前へ進めばいい」という『源流』から学んだことと同じだ。「北洋」があったビルへ20年ぶりにきて、そんなことも頭に浮かんだ。


■自ら提唱した皇居を望む新本社の仕掛け


 2015年4月に社長就任。2年目の取材に「主戦場は海外で、新しい市場、国、事業領域パートナーをつくっていく『ジャングルガイド』が三井物産の役割で、受け継がれているDNAだ」「砂漠でもツンドラでもジャングルでも、人のいないところで商売ができる人材を育てる。それが『人の三井』で、戦場で戦える人を徹底的につくり上げていく」と明言した。


 この実現には、先輩と後輩、あるいは同僚同士が情報を共有し、経験を伝承していく仕掛けがほしい。本社ビルの改築が決まり、どんなビルにするかの検討が始まった2018年暮れ、それを強く唱えた。結果、2020年5月に稼働した新本社ビルには「キャンプ」と呼ぶ狩人が集う場が、13カ所もできた。31階建ての16階から28階で、いずれも窓から皇居や新宿の高層ビル群が望める一等地だ。


『源流Again』の後半で、この「キャンプ」を巡った。自由な雰囲気から思考を深める静けさまで、13カ所を4種類に分け、それぞれに無料の飲料とナッツが置いてある。場所によって違う飲料も用意し、「今日はあれを飲みたいから、あのキャンプへいこう」とできるようにもした。仕事もコミュニケーションも、それぞれが、それぞれのやり方で、前へ進めばいい。そのうえで、連携して新しい仕事をつくり、質のいいものにしていき、果実を得て会社の企業価値を高めてほしい。


 コミュニケーションの形が、「20世紀型」から変わるのは当然だ。唯一つ言いたいのは、先輩、同僚、後輩が垣根なく、コミュニケーションを通じていいものを伝授し合ってほしい。その文化を、藤木さんから自分、そしてこれからの人へと、渡していきたい。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2023年7月24日号