思えば、花巻東高校時代の大谷は佐々木監督から同じような言葉をかけられている。佐々木監督は、新たな発想力を植えつけようとした。誰かみたいになりたい、と思うのではなく、憧れの存在や領域を超えたい、という意識がなければ新たな道は開けない。同校出身で大谷の3学年上にあたる菊池雄星(ブルージェイズ)を引き合いに出して「雄星みたいになりたいと思うのではなく、『超えたい』と思わなければいけない」と、事あるごとに大谷にそう語り続けたものだ。決勝を目の前にした言葉は、大谷の潜在意識として高校時代の教えが刻まれている証しでもあっただろうか。

 圧倒的な向上心──。それは、大谷の資質を表す言葉の一つだ。人の成長とは、可能性を伸ばし続けていくことである。「自分よりも高いレベルの人たちと常に付き合っていくことが、成長するための大事な要素」だと佐々木監督は言う。足が速くなりたいと思ったら、速い人のそばへいけばいい。勉強にしても然り。「できる人」に近づけばいい。高く、極めたものを備えた人のそばで競い合っていけば、どの分野でも人は成長できる可能性がある。そのことを、大谷は自らの歩みで雄弁に語り続けている。

 二刀流の挑戦が動きだした北海道日本ハムファイターズへの入団を決めた際に、18歳の大谷は自身の目指すべきものを球団側に伝えたという。

「メジャーのトップに行きたい」

「長く野球を続けたい」

「何か新しいことを、他人がしたことのないことをやりたい」

 11年前の思いそのままに、誰もが成し得ない二刀流として挑み続けるのだ。

「自分が一番成長できる過程を踏みたい。野球をやめたときにそう思える自分でありたい」

 渡米直前の2017年冬に聞いた大谷の言葉は今、アメリカの風に、確かな音を立てて溶け込んでいる。

AERA 2023年7月24日号より抜粋

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