「台風襲来時に川や畑、田んぼを見に行って亡くなった人」のニュースを見て、不思議に思ったことはないだろうか。医師によると、危険だとわかっているのにわざわざ見に行く人は、気象条件の影響でパニック状態に陥っている可能性もあるという。命を落としかねない行動の意外な引き金とは……。
【チェックリスト】精神科医監修 「心の病気」の兆候に早く気づく早期症状
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日本は地理的に台風が上陸しやすい国だ。それだけに、例年多くの被害や死者・行方不明者を出してきた。
ところで、大型の台風が接近している時、ニュースなどでは「外出を控えてください」と繰り返し報道される。にもかかわらず、川や畑、田んぼを見に行った結果、亡くなる人は毎年のようにいるものだ。
上本町わたなべクリニック院長の渡邊章範医師によると、こうした現象は何も不注意などが原因とは限らない。台風の時期ならではの「低気圧」が精神に影響を及ぼしている可能性があるという。
「台風が発生すると低気圧が発達します。低気圧にさらされると、人間の体内ではアドレナリンというホルモンの分泌量が増え、興奮状態になることがわかっています。台風が近づくと子どもが夜いつもより遅くまで起きていてはしゃいだり、寝つきが悪くなったりするのもこのせいです。また、大人でも血圧や心拍数の上昇、動悸(どうき)や不整脈などの症状が出ることがあります」
梅雨や台風の時期に起こりやすい不調は「気象病」と呼ばれ、体だけでなく精神にも多大な影響を与える。「病」と聞くと大げさに聞こえるかもしれないが、雨の日に気分が沈みやすくなる、イライラする、夫婦げんかが増えるといったことは多くの人が経験していることだろう。
「海外には梅雨がない国もありますが、季節の変わり目に自殺者が増えるのは日本だけではなく世界的な傾向です。大なり小なり、誰もが気象の変化にストレスを抱えているものなのです」と渡邊医師は言う。
気象の変化が精神的な不安・焦りを助長させる
特に、普段から血圧が高い人や持病のある人は心の安定を保てず、精神的な焦りが助長してしまうことがある。それが「過度な焦燥感によって台風のなか、田んぼを見に行く」という行動につながり得るのだ。