瀬名 当時は遺伝子というものが神聖視されていましたよね。実際、解読してみたら、それだけでは人間のすべてを解明することはできなかった。あと、20世紀と21世紀の大きな違いは、ベンチャー企業の台頭によってビジネス化が促進されたこともありますよね。ゲノム解読が可能となったことで、それをビジネスにしようとする人たちが現れた。それまでの科学は、大学の研究者が連携して、公平な立場から論じるものだという風潮があったけれど、分子生物学者のクレイグ・ヴェンター※がベンチャー企業を起ち上げたり、実業家のビル・ゲイツ※がバイオ企業に巨額を投資したりして、国家プロジェクトに挑戦するということをやり始めました。


大隅 そうですね。潤沢なお金と人を注ぎ込んでスケールアップさせたことで、テクノロジーも飛躍的に進歩しました。昔は人ひとりのゲノムを解読するのに何日も、何百万ドルもかかりましたが、今は一人分が約3時間、10万円程度でできてしまいます。次世代シークエンサー※の進歩は生命科学の世界に大きなインパクトを与えました。

東北大学副学長で、脳や神経の発生を研究する大隅典子教授
東北大学副学長で、脳や神経の発生を研究する大隅典子教授


瀬名 解読が容易になったことで、「23andMe」のような遺伝子検査キットが一般消費者向けに発売されるようにもなったんですよね。唾液を送ると自分のゲノムを解析してくれて、病気になるリスクや自分の遺伝的なルーツがわかるというものです。結果はインターネット上にアップされ、気軽に閲覧できる。ビジネスではあるけれど、そうしたデータが蓄積されれば人類のためにもなるはずだ、と彼らは主張しています。この30年くらいで、生命科学に対する取り組み方、考え方は大きく変わったといえるでしょう。

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ビッグデータをいろいろなシーンで扱うことも可能に