
■謙虚な気持ちで検証
陰謀論に陥らないための「特効薬」はない。だが、陰謀論を放置しておけば、社会や政治の分断などさまざまな影響をもたらす。5人が死亡した21年1月の米連邦議会議事堂襲撃事件を引き起こした主犯格は、「アメリカの政財界やメディアは“ディープステート(闇の政府)”に牛耳られている」などの陰謀論を掲げるQアノンの信奉者だった。日本では、「ワクチンは殺人兵器」の陰謀論を信じる家庭では離婚に至るなど、個人レベルの影響も出た。陰謀論に陥らないためにはどうすればいいか。
ネットメディア論が専門の国際大学GLOCOMの山口真一准教授は、「一人一人が謙虚になることが極めて大切」と説く。最近発表された米国の研究では、約75%の人が実際の自分の情報の真偽判断能力より高く自己評価していた。しかも、そのように過大評価している人は、むしろ真偽を見分ける能力が低く、騙されやすいという結果も出ているという。
「だからこそ、謙虚な気持ちで情報を検証することが大切です。ただ常に検証するのは困難。SNSでリツイート(拡散)する時や直接誰かに伝えたりする時だけでも情報の真偽検証をすれば、自分がスプレッダー(拡散者)にならずに済み、陰謀論の拡散を防ぐことができます」(山口准教授)
内田特任准教授は、まず「人間は認知バイアスを持っていて陰謀論にからめ取られる可能性が十分にあり得るという自覚を持つことが大切」だと話す。
「ただ、陰謀論が起きる土壌には政治家や報道関係者、研究者への不信があります。したがって、政治や報道、科学が信頼される政治や社会をつくっていくことが、陰謀論をなくすためには何より重要です」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年7月17日号より抜粋

