まず、区役所をやめた。自分を偽り、親が望む人間になろうという思いも捨て、退院後に身を寄せていた実家も出た。渋谷駅のハチ公前で、ストリートアートをしていた人たちに話しかけた。自分も一緒に描いたり、路上ミュージシャンと友達になったり。どんどん周りに自分の好きな人たちが増えていった。すると、ライターや撮影、ヘアメイクなどの仕事がフリーでできるようになっていった。
■ようやく解けた「本当の私」
実家の父から久しぶりに電話がかかってきたのは、2019年。36歳になっていた。1歳下の弟が、知能検査を受け、発達障害だと診断されたとのことだった。立花さん自身も、自分が発達障害やADD(注意欠陥障害)かもしれないと思っていたため、一度検査を受けてみることにした。
「WAIS-IV」という知能検査を受けた。その結果、全般的なIQ(知能指数)が平均を大きく超える137だった。また、同検査の四つの指標のうち、ことばの理解力や推理力、思考力を示す「言語理解」はIQ130、目で見た情報から形を把握し推理する「知覚推理」はIQ128、情報を一時的に記憶する力の「ワーキングメモリー」がIQ131、作業の速度を測る「処理速度」がIQ130と、指標のすべてが平均を超える高い数値となっていた。
驚いた。臨床心理士からは「発達障害の可能性はほぼない。単に、知能が世の中の人より高いだけの健常者ですね」と言われた。立花さんはそれまで、自分の生きづらさは発達障害のせいだ、となんとなく思っていたが、それは間違っていたことがはっきりした。この時、初めて自分の特性が何なのかを知りたい、と思った。
結果を知人に言うと、「ギフテッドじゃん」と言われた。初めて聞く言葉だった。「ギフテッド」に関する専門書を片っ端から読んでみた。
特徴として書かれていた「情報を素早く理解」「いつも何かにのめり込み徹底的に調べる」という良さだけでなく、「注意散漫に見える」「同級生との関係づくりが下手」といった弱点までが、いちいち自分に当てはまった。「これ私のことだ」と思うと、胸がすっとした。