上野駅で寝台特急「カシオペア」の下り最終列車を見送る鉄道ファン。カシオペアは2016年3月に定期運行を終了しており、今年6月3日の運行はツアー専用のものだった=2016年3月19日、東京都台東区
上野駅で寝台特急「カシオペア」の下り最終列車を見送る鉄道ファン。カシオペアは2016年3月に定期運行を終了しており、今年6月3日の運行はツアー専用のものだった=2016年3月19日、東京都台東区
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 近年加速する、撮り鉄の傍若無人な行為。基本的ルールを知らない人が増えたためだ。だが、場合によっては逮捕される可能性も。鉄道好きの弁護士に、「罪と罰」を聞いた。AERA 2023年7月10日号より紹介する。

【近年起きた主な「撮り鉄」の事件簿はこちら】

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 フォアーン!!

 危険を知らせるけたたましい警笛が鳴った直後、線路の敷地内にいた若い男性3人が、カメラや三脚を手に一目散に走り出した。走行中の上野発青森行きの寝台特急「カシオペア」は、金属音を響かせ緊急停止した。

「事件」が起きたのは、6月3日午後6時ごろ。JR宇都宮線の蒲須坂(かますさか)(栃木県さくら市)-片岡(同矢板市)駅間の踏切付近で起きた。現場は、田園風景が広がるのどかな場所。列車の撮影スポットとして知られ、この日も50人近い鉄道好きの「鉄ちゃん」たちが集合していた。

 そんな中、件の3人組は、鉄ちゃんの中でも写真撮影を目的とする「撮り鉄」仲間と見られ、至近距離からカシオペアを撮影しようと接近したと見られる。その様子を撮影した動画がSNSに投稿されると、瞬く間に拡散された。

 JR東日本によれば、列車は衝突の危険があると判断し、踏切上で緊急停止したという。

 いま「撮り鉄」によるトラブルが加速している。なかには、「好きなアングルで撮るため」に、踏切6カ所で非常停止ボタンを押し運行を妨害したケースもあった。

AERA 2023年7月10日号より
AERA 2023年7月10日号より

■ルール知らない人増加

「執念」ともいうべき写真にかける思い。撮り鉄の根底にあるのは「いい写真を撮りたい」という一念だ。それ故普段は穏やかでも撮影となると暴走する撮り鉄は昔からいた。しかし昨今の傍若無人ぶり。ここまで由々しき事態に発展したのはなぜか。

 鉄道ジャーナリストの松本典久さん(68)は、鉄道用地や個人の私有地に立ち入ってはいけない、鉄道沿線での撮影は公道あるいは公有地から行うなど「基本的ルールを知らない人が増えたから」と指摘する。

「かつては、鉄道会社や旅行会社の主催する撮影会に参加すると、鉄道の現場の方や随行員から危険に対する注意事項が指示された。場合によっては、ヘルメットや安全帯の着用を義務付けられるケースもあった。こうした経験の積み重ねで、危険に対する知識や撮影上のルール、マナーは身についた。しかし、今はSNSなどで撮影ポイントや日時の情報だけが独り歩きし、マナーの継承ができなくなっていると思います」(松本さん)

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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