悪役といっても、向こうのファンはそれが仕事だと割り切っている人が多かったから、二人も人気があったんだ。当時の日本で悪役だと、瓶を投げつけられたりしたかもしれないね。アメリカのファンは自分で金を払った分を楽しませてくれれば認めてくるが、それでも悪役でファンを満足させられたのは二人に本当の実力があったからだ。
マサさんもカブキさんも酒はいつもビールで、ホームから遠い会場で試合をしたときは、車にビールを2ケースくらい積み込んで帰るんだ。それを飲みながら……。あの頃でも飲酒運転はアメリカでも厳しかったはずだけど、まあ、時代といえば時代なのか……。
あるとき、ジョージアの大学のレスリングかなにかのチャンピオンに「プロレスなんてインチキだろうが!」とレスラーたちが絡まれたことがあって、そのときのブッカーが意地悪くて、ほかに大勢レスラーがいる中でマサさんに「おい、マサ、お前が行け」と、恥をかかせるつもりで指名して、そいつの相手をさせられたんだ。
そうしたらマサさんは10秒もしないうちに相手の目を潰そうとして、相手はすぐに逃げて行ってしまったということもあった。マサさんは「ナメられたらダメだ」という意識を常に持っていたね。悪役として人気があるといっても「こっちの純粋なプロレスファンはナイフを持って刺しに来る奴もいる。そこまで気を付けなければいけない」と言っていたし、実際に車で追いかけられたり、コンビニで「お前に商品は売らない」と言われたりと、日本人だからこそ苦労したことも多かったようだよ。
とはいえ、マサさんもカブキさんも、普段は大人しいし、レスラーからも慕われていた。マサさんは特に、日本でも長州力が団体を持ったときも黙ってついて行って、そこでファイアされても黙って佐々木健介のところに行って、恨み言は一切語らなかった。本当に辛抱強いいい人だったんだと思うよ。