天文観測においてこの分光が重要なのは、何万光年も離れた星が発した電磁波を分光することにより、その天体を形成する物質の種類、量、比率のほか、天体の表面温度などが把握できる点にある。また、地球から遠ざかる星は赤く、近づく星は青く見えるため、その光の波長を調べることで、星の運動さえ分析することができる。
前述の国立天文台・縣氏監修の『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』では、これらを詳細に解説しているが、ここでは簡単に、星の成分について紹介したい。
上のイラストは、ハッブルがとらえた「イータカリーナ星雲」のスペクトルを表したものだ。タテに白く見える線は「輝線」(きせん)と呼ばれ、とくに強い波長を示している。この輝線は、特定の物質によって生まれる。つまり、何万光年も離れた星が放った光を、分光器を通してスペクトルに分解し、どの波長が強く、どんな組み合わせで表れるかを調べれば、その星の構成元素を知ることができるのだ。このイータカリーナ星雲のスペクトルからは、Fe(鉄)やNi(ニッケル)が検出されていることがわかる。
138億年前にビッグバンが発生したが、その際に生まれた元素は、水素(H)とヘリウム(He)と、ほんのわずかなリチウム(Li)とベリリウム(Be)などだけ。つまり、「水兵リーベ」の冒頭に並ぶ軽い元素だけだ。しかし、私たちの身体は、主に酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、カルシウム(Ca)などからなり、微量元素としては鉄(Fe)、フッ素(F)、ケイ素(Si)なども含まれる。こうした多様な元素は、どこで生まれたのか?
ビッグバンで生まれた水素やヘリウムは、ガスやチリとなって宇宙を漂っていた。やがてそれらは重力によって集積し、その結果、星が生まれた。その内部では核融合反応がはじまり、水素からヘリウムが合成され、ヘリウムからは炭素が合成され、さらに炭素は酸素、そしてケイ素などへと変容し、最後は鉄(Fe)が生成されていった。