アメリカは「悪」でもないけれども、いわゆる「完全なる善」ではなくなっているということは確かだと思いますし、イラク戦争は思い返すと、本当にひどかった戦争ですが、いまはそれがヨーロッパで行われているというふうに言えるわけです。
私は、「アメリカフォビア」ということは今まで言ったことがなく、初めてここで言いました。そういうわけで、アメリカが変身をしているという状況はあると思いますね。
そして、この惨憺たるアメリカの状況に関して、もう一つ付け加えるとしたら、「アメリカは世界の人々の労働で生きている」という状況があるということです。
もちろん中国もそうですけれども、ヨーロッパや日本などのいろんな国々に依存して、そういった他国民の労働に依存をして生き延びている国という、パラサイトのような状況があるというふうに言えると思うわけです。
また、国内に目を向けても、人種差別というものがいまだにあるということで、黒人が通常の市民としていまだに認められないような状況もあるわけですね。
最後にひと言で結ぶとしたら、「この世界からアメリカという勢力がなくなれば、より美しい、より平和な世界が現れるだろう」というふうに言えるかなと思います。
この戦争が始まった当初、覚えていらっしゃると思いますけれども、ロシアのいろんな銀行や、ロシアのお金持ちの人々のヨットなどの差し押さえとか、そういうことも行われたわけですよね。
そういう意味でも、何だかまあ泥棒のようなこともしていると。略奪者のような行動も起こしていると。そんなアメリカに、私はもう我慢ができないわけです。
今朝、私に何が起こっているのかわからないですけど、ひじょうに何というかこう、正直にいろいろ話をしてしまっています。
池上 ハハハ。ありがとうございます。
トッド 月曜日だからでしょうか。私がいま一番気がかりなことというか、したいことは、孫の世話をすることなんですけどね(笑)。
●エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
歴史人口学者・家族人類学者。1951年、フランス生まれ。家族構成や人口動態などのデータで社会を分析し、ソ連崩壊などを予見。主な著書に『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(文芸春秋)『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)など
●池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。NHKの記者やキャスターを経て、フリーに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。主な著書に『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)『第三次世界大戦 日本はこうなる』(SB新書)など