エマニュエル・トッド氏
エマニュエル・トッド氏

 けれども、今回のウクライナ戦争が起きて、私の暮らすヨーロッパにアメリカがやってきたということになって、そしてウクライナでも多くの人々が亡くなっているという現状を踏まえると、やはり少し感情というものが、考えというものが、変わってきているわけです。

 イラク戦争のことを池上さんはおっしゃいましたけれども、ウクライナ戦争も同じく、やはりアメリカが責任者であるわけですね。

 私は「反米主義者」ではないと思います。つまり「反米」と言うと、アメリカの政治に反対したり、アメリカの文化的な側面に対しても反対をしたりする立場の人たちだと思うんです。でも、私はアメリカの文化的なところは愛している側面もあります。英語はフランス語以外でしゃべれる唯一の言語でもあるわけですね。

 そうではなくて、私はむしろ、私の立場を「アメリカフォビア(米国嫌悪)」というふうに定義したいと思います。

 ロシアフォビア(ロシア嫌悪)ということが言われますけれども、それと同じ意味で、アメリカ嫌いというわけです。反米主義とは、またちょっと別なものです。どういうことか。私は、アメリカをひじょうに「怖い」と思うようになったんですね。

 確かに、この戦争を踏まえて過去のことを振り返ると、イラク戦争もしかりですけれども、ベトナム戦争やその後もいろんな戦争で多くの死者を出す戦争をしてきた国、アメリカという姿が見えてきます。

 そのアメリカは、海外で死者を出すだけではなくて、いまや国内でも死者を出していると言えると思います。中等教育しか受けていない人々の間では平均寿命が低下しています。そういった意味で、国内での打撃は存在します。

 そんなアメリカというのはリベラル民主主義ではない、と私は思うわけです。それは単に、戦争をし続ける、ときに何十万人も人を殺してしまう国ということです。

 そのアメリカはそういった意味で、ある意味別もの、たとえるならカフカの『変身』という小説があるのはご存じかと思いますが、アメリカはカフカ的な意味での「変身」をしてしまったというふうに言えると私は思います。

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惨憺たるアメリカの状況