佐藤 慢性腎臓病はゆっくりと進行していきます。自覚症状も基本的にはない。ですから、軽症の患者は危機感を持ちにくいですよね。
片岡 そうなんです。無症状ということでは同じでも、「あなたは癌です」と言われたときは誰もが強い危機感を持つのでしょうが、腎臓病は必ずしも重く受け止められません。
しかし、症状が進行して人工透析に移行すれば、実は男女ともに平均余命がおよそ半分になってしまいます。たとえば50歳から人工透析を始めた男性の平均余命は14.6年です。4捨5入して、65歳までしか生きられないわけです。これに対して、一般男性の平均余命は30.5年。つまり、約81歳まで生きられる。その意味では、腎臓病は癌に匹敵するような恐ろしい病気だと言えます。
佐藤 腎臓病は「悪化」という1方向にしか進んでいきません。完治する、ということがないわけです。ようするに、一生ずっと病気と付き合い、一生ずっと病気について考え続けなければいけない。これは多くの癌や糖尿病も同じです。今は若くて健康な人であっても、国民的な病気については教養としてあらかじめ知っておくべきなんです。
片岡 まったく同感です。ですから、私は今回、佐藤さんがご自身の病気についての本を出版することになったのは、とてもありがたいことだと思っています。佐藤さんが世に発信することによって、腎臓病をはじめとするさまざまな病気について新たな知見を得る人が、何万人という単位で増えることを期待しています。
■「最初の1歩」は医師の側から
片岡 今しがた佐藤さんがおっしゃったとおり、腎臓病になった人は一生病気と付き合っていかなければいけません。これはつまり、主治医と患者さんは何十年にもわたって付き合っていく、ということでもあります。このことについて私が1番重視しているのは「患者さんと良い人間関係を築く」ということです。そのためにはまず、1人1人の患者さんについてよく知っておかなければいけません。ですから、診察時の対話はとても大切にしています。
佐藤 病院に来ている1人1人の患者は、カルテの番号、診察券の番号で個体識別をされています。言ってみれば、社会的属性をはぎ取られている状態であるわけです。
患者の服装を見ても、男性も女性も診察を受けやすいように普段着で来ている人がほとんどです。病院ではスーツ姿の男性をあまり見かけませんし、スーツを着ているからといって、その人が会社員なのかどうかも分かりません。まして役員クラスの人なのかどうか、なんてことはまったく分からない。
それから、病院側からすれば患者はみんな同格です。お金持ちの患者を特別扱いするわけでもないし、生活保護を受けている患者だからといって粗末に扱うわけでもありません。