作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんが、病について、そしてその先にある死について、主治医の片岡浩史さんと語り合った。『教養としての「病」』から、一部を紹介する。
■なぜ、私は「余命宣告」をするのか
佐藤優 今回本書のテーマに掲げたのは「教養としての“病”」ということです。「病気の知識は教養なのか?」という疑問を持つ人もいるかもしれませんが、圧倒的大多数の人たちは病気によって亡くなるのですから、誰もが病気について広く知っておかなければいけません。病気の最終的なゴールである死についても、目を背けずよく考えておく必要があります。いずれの場合も、人生の早い時期から始めておくことが望ましいでしょう。
ところが、現実にはそういう人たちは決して多くありません。そこに一石を投じたいということが今回の企画のスタートポイントでした。
片岡浩史 どんな病気であれ、ある一瞬に突然発生するものではありません。自覚症状が現われるのはある一瞬かもしれませんが、その萌芽はそれよりずっと前にあるわけです。
たとえば腎臓病の場合、50歳の人が自覚症状を訴えたとき、その原因は20代から始まった生活習慣だった、というケースはよくあります。
若くて元気なうちは、みんな病気のことなんて意識しませんよね。しかし、若くて元気なうちにこそ病気を防ぐことを日常的に意識しなければいけない、というのが私の考えです。そのためには、病気の先にある死についても意識する必要があります。今回の対談ではそこを読者のみなさんにお伝えできれば、と思っています。
佐藤 片岡先生は初診の患者に対して「余命宣告」をされていますよね。
片岡 はい。腎臓病は無症状のまま長い年月をかけて進行していく病気で、患者さんがその恐ろしさを自覚しにくいという特徴があります。「患者さんが自覚した時はもう手遅れ」、となることが多いため、私は意識的に、比較的早い段階で「その患者さんの予想される余命」についてお話をするようにしています。特に、20代から40代で肥満がある人は悪化するリスクが相当に高いので、厳しく言うんです。「このままだとあと何年しか生きられません。今の生活習慣は絶対に改めなければいけません」と。
私は今日まで、手遅れの状況になってはじめて事の重大さに気づいて、辛く悲しい思いをする患者さんをたくさん見てきました。そうはなってほしくないから強く言うわけです。
たとえ肥満の腎臓病患者であっても、若いうちから減塩や減量にしっかり取り組めば、健康長寿を実現することもできるということが重要です。