折に触れて議論されてきた皇位継承問題だが、先送りが続いている。女性・女系天皇容認に向けた制度改正の議論も進んでいない。これからの皇室のあり方について慶應義塾大学名誉教授・笠原英彦さんに聞いた。AERA 2023年6月12日号の記事を紹介する。
【写真】まさか1人だけドレスコードが伝わっていない?女性皇族がずらりと並んだ一枚
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皇族の男子のみが皇位につける現在の制度では、安定継承が危機的な状況にあるのは間違いありません。皇位継承の安定化については小泉内閣のころから議論され、その時点で女性・女系への継承資格拡大など基本的な案は示されました。しかし、その後議論はあまり進んでいません。2021年にも安定的な皇位継承を確保するための諸課題や女性宮家創設などについて議論する有識者会議がありました。本来なら、有識者会議がとりまとめ国会へ報告した内容ももとに国会論戦されてしかるべきですが、保守派からの反発も強く、棚上げにされているのが現状です。世論調査の数字を見れば女性天皇容認への社会的な機運は高まりつつあると思いますが、女系への拡大についてはこれまでの皇室の歴史を見ても先例がなく、依然慎重です。
私が専門とする政治学では、制度の安定性を高めるためにどんな設計が可能か検討します。その見地に立てば、女系容認が安定継承につながることは確かです。そうなると、子の男女にかかわらず親から子へ継承する直系継承が可能になります。象徴天皇と国民の関係を考えれば、直系継承は国民にとってわかりやすく、将来の継承者に対しても早くから帝王教育を施しうるメリットがあるでしょう。
ただし、基本的な部分で相いれない対立構造ができている以上、制度論だけでいま女系容認を唱えることは難しいでしょう。歴史上、男系女子の天皇は8人10代在位しました。それも踏まえ、私としては、男系男子優先を維持しつつ、まずは女性皇族のうち内親王(現行法では天皇の女性の子、孫、姉妹)に限り皇位継承を認めるべきだと考えます。いわば「セーフティーネット」を確保し、さらに議論を進める必要があります。