大規模なタワーマンションが林立する都心部。その生活は優雅なイメージがあるが、住民格差や階層カーストなどに悩む人も(撮影/写真映像部・高野楓菜)
大規模なタワーマンションが林立する都心部。その生活は優雅なイメージがあるが、住民格差や階層カーストなどに悩む人も(撮影/写真映像部・高野楓菜)
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 2021年ごろから話題を呼んでいる、「成功の象徴」とも言われるタワーマンションを舞台に、都市で暮らす人々の格差や焦燥を描いた「タワマン文学」。作品で描かれる中流からアッパーミドル層自身にも刺さっているという。AERA 2023年5月29日号の記事を紹介する。

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 タワマン文学の第一人者のひとりが、今年1月に冒頭の『息が詰まるようなこの場所で』(KADOKAWA)を上梓(じょうし)した外山薫さんだ。「窓際三等兵」のアカウント名で、2021年からツイッターにタワマン文学を投稿してきた。

「友人にもタワマンに住んでいる人が何人かいるけれど、外から見たキラキラした感じと実際の生活は全然違います。それでも、タワマン住民はネットなどではものすごい勢いでたたかれている。そのギャップをうまく書けばバズるだろうなと思ったのがきっかけでした」

 ツイッターは、140字でいかに心をざわつかせるかが勝負だという。人を不快にさせるような表現も積極的に使ってきた。

 外山さん自身も、地方都市から慶應義塾大学に進学。今も東京に暮らし、会社員として平均年収以上の給与を得ている。いわば、タワマン文学で描く中流層の当事者でもある。

「私自身が、東京という街の中でもがいているひとりです。もやもやを露悪的に笑い飛ばすことで、自分のなかのバランスを保っていた面もあると思います」

 一方、『息が詰まるようなこの場所で』はタワマンに住む家族たちの人間模様を描いた長編だ。タワマン低層階に住む会社員夫婦と、高層階に住む医師・専業主婦の夫婦。4人それぞれの目線で、苦悩しながらも働き、子どもを育て、日常を生き抜く様が描出されている。バズることをひとつの目的にしてきたツイッターとは離れ、短文では書ききれない感情の背景を丁寧につむぎたかったという。

■執筆は自身のセラピー

 主人公のひとり、平田健太の言葉が象徴的だ。タワマン低層階に暮らす会社員の健太は言う。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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