カバー袖には「秋元康、絶賛!」「見城徹、号泣!」などの文字。「すべての国会議員と自衛官とその家族、そして平和ボケで想像力の萎んだ私達日本人全員が読むべき作品です」という草野満代氏(アナウンサー)の推薦文も「なんだかなあ」だけど、ともあれ売れ行きは好調。月村了衛『土漠の花』。自衛隊を主役にした話題のエンタメ小説だ。
 舞台はソマリアとジブチの国境地帯。墜落したヘリの捜索救助に向かった陸上自衛隊第1空挺団の面々は、乗員3人全員の死亡を確認、遺体の収容方法を話しあっていた。そこに3人の女性が現れる。「助けて下さい」。ビヨマール・カダン氏族のスルタン(氏族長)の娘を名乗るアスキラとその縁者だった。敵対するワーズデーン氏族に追われているという。そのとき突然の銃声。隊長の吉松3尉ほか計3名の隊員と、女性2人が銃弾に倒れてしまう!
〈自分達は攻撃されている──なぜだ、一体誰に──〉〈分からない──だが、このままでは全員が死ぬ──〉。かくて隊長を失った友永曹長ら隊員にアスキラを加えた8名は、ジブチの拠点に帰還すべく、死の逃亡劇を余儀なくされるのだが……。
 ソマリア沖の海賊対処部隊は実際に派遣されている部隊。ちょっと期待したのだが、結論的には、ま、ありがちな冒険活劇っすね。「自衛官は人を殺せるのか?」という帯の惹句に対応するように、若き市ノ瀬1士は〈もうやるしかないって……それで撃ちました。命令、ありませんでしたけど、撃ちました。自分、殺しちゃいました。何人も、何人も……〉とベソをかくが、自衛隊員らしい葛藤といったらそのくらい。みんな結局、銃は撃ちまくるし、逃走中のポカはやりまくるし、全体的にはアニメみたいな感じ?
 もし仮に自衛隊がこのような部族抗争に巻きこまれる危険があるなら解釈改憲なんて適当な方法で自衛隊を外に出したらダメだよね。実戦経験のない自衛隊を国防軍に昇格させるのも危険すぎますよ。

週刊朝日 2015年3月6日号

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