そういえば昨年、博多のKさんからの依頼で「一杯の珈琲」という曲を書いた。これからブレークする予定(^o^) (撮影/谷川賢作)
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そういえば昨年、博多のKさんからの依頼で「一杯の珈琲」という曲を書いた。これからブレークする予定(^o^) (撮影/谷川賢作)
3兄弟揃い踏みの図 サルトル先生も魔界へ誘ってほしかっただろうなあ きっと(>y<;) (撮影/谷川賢作)
3兄弟揃い踏みの図 サルトル先生も魔界へ誘ってほしかっただろうなあ きっと(>y

 クリエイティブな人間達にとっての「三種の神器」は今でもコーヒー、タバコ、酒なのだろうか? 私はというと、確かにコーヒーは毎朝の儀式のようだ。家にいる時は必ず寝ぼけ眼でコーヒー豆を碾くことから一日が始まる。なにはなくともまずは一杯のコーヒーがないことにはスイッチが入らない。タバコはやめて早10年になるが、昔はチェーンスモーカーだった。作曲で部屋にこもる時も、ライブでピアノを弾いている時も、別にそんなに吸ってはいないのだが、のべつ紫煙を立ち上らせていないと落ち着かないという、まるでタバコを「音楽を生み出す魔法のお香」代わりに使っていたかのようだ。しかし風邪をひいた時の辛い喉の痛みのおかげである時キッパリとやめられて、その後の創作にもなんら支障はないから不思議だ。

 酒は? これはやめられない。さすがに飲みながら書くことはないのだが、ライブの時にグラス片手で弾いている時もある。(もちろんいつもじゃないですよ。気心の知れた仲間とのライブの時ね) ちょっと一杯ひっかけた時のほうがリラックスしていい演奏になるのさ、なんて思っているのは当の本人だけ、とよく言われるが、実はそんなこともないと頑固に思っている。少量の(ここ大事!)アルコールが醸し出すゆったりとした空気感というのも、いい演奏には必要なのであ~る。(でも、ほどほどにしなさいね!)

 そんな訳で私の場合「二種」になってしまったが、朝のコーヒーと夜の酒は昔も今も創造の源。そしてこれからもなくてはならない「ライナスの安心毛布」ぼむっ! 太鼓判。

 そう、この「安心毛布」こそが、天才たち(たにけん君は除く)にとっていかに大切かということがこの『天才たちの日課』(メイソン・カリー著、金原瑞人/石田文子訳、フィルムアート社刊)という本にてんこ盛りになっているのだが、さすがは天才たち。どいつもこいつも度外れたとんでもない奴ばかり。

 例えばベートーヴェンは毎朝のコーヒーを「一杯につき、豆六十粒。正確を期すために一粒ずつ数えることもよくあった」

 リストとタバコとの関係は「食べるときと寝ているとき以外はいつもタバコを吸っていた」

 そしてなんと言っても極めつけはサルトル「サルトルが二十四時間のうちに摂取したものは、タバコ二箱、黒タバコをパイプで数服。アルコール(ワイン、ビール、ウオッカ、ウィスキーなど)を一リットル以上、アンフェタミン二百ミリグラム、アスピリン十五ミリグラム、バルビタール数グラム、コーヒー、紅茶、豪華な食事だった」

 誇張して書かれている気もしないではないが、こうなるともう化けもんですね(^_^; それにしても各人各様のこの神経症的なところが天才の天才たる所以なのでしょうか? そして天才の皆さんはそんなにも、生きること、創作することが苦しみであったのか(凡人の私は絶句するしかない。中にはサマセット・モームのように「書くことそれ自体が職業というより中毒だった」というような希有な人もいないではないが)
 
「三種の神器」にまつわる(狂気の?)エピソード満載のこの本だが、天才たちの、一つほっとするというか、まともと思える毎日の習慣が「散歩」である。

 前述のベートーヴェンは「いつも鉛筆を一本と五線紙を二、三枚ポケットに入れて持ち歩き、浮かんできた楽想を書き付ける」

 チャイコフスキーも「散歩は彼の創造性に欠かせないものであり、散歩中にしばしば立ち止まってアイデアを書きとめ、あとでピアノで肉付けしたりした」とある。

 よーし。私もこれからは散歩だ! 散歩していい曲をいっぱい書くぞ、って、あ~たらしいその短絡さはわからないでもないが、ベトさんもチャイさんも気持ちのよい大自然の中を散歩していて、それがインスピレーションの元だったんだよきっと。住宅街のあ~たんちの周りのどこ散歩するん? まずはそこからだな(^_^;

 アーティスト達がどういう毎日を過ごしつつすばらしいものを作り出してきたのか。そのことはファンにとっては永遠のロマンのようだが、この本を読むかぎり、「三種の神器」はともかく、規則正しい毎日をおくることが創作の秘訣であることが多数派のようだ。

 それに朝型の天才も意外なほど多い。不眠とサッチモ(生涯を通じて不眠症だったらしい)、セックスとジョルジュ・シムノン(本人の推計によると、生涯で関係をもった女性は1万人とのこと!)、作曲に行き詰まると三角倒立をするストラヴィンスキー等の、たまげたり笑えたりする事例も多々のこの本。ぜひご一読を![次回2/23(月)更新予定]