映画「シンドラーのリスト」などで知られる演技派俳優のリーアム・ニーソンさん(70)。50歳を過ぎてからアクション作品への出演が増え、人生の苦みと渋みをたたえた”大人のヒーロー像“で数々のヒット作を生み出してきた。最新作「MEMORY メモリー」(5月12日公開)では、なんとアルツハイマー病を発症した殺し屋を演じている。どんな思いで演じたのか。
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完璧な仕事をする殺し屋として裏社会を生きてきたアレックス。その日も任務を終えて車に戻った彼は、愕然とする。
「車のキーは一体どこだ?」
演じるリーアム・ニーソンさんは「ユニークな設定に惹かれたんです」と話す。
「本作のオリジナルで2003年に公開された『ザ・ヒットマン』(エリク・ヴァン・ローイ監督)を知って、おもしろいと思いました。ヒットマンが登場する映画は数多く作られてきましたが、アルツハイマー病を患い、病と闘いながら仕事をする殺し屋というのはなかったですからね」
引退を決意したアレックスは、これが最後と決めて仕事を引き受ける。だが、ターゲットの一人はまだ幼い少女だった。
「アレックスはずっと罪を犯してきた、いわば悪人です。しかし彼は『絶対に子どもは殺さない』という信念を貫いてきた。そこで彼はなぜ少女が殺されるような状況になったのか、背景にあるものを探り始めます」
混濁していく記憶と戦いながら、アレックスは背後にある人身売買組織の存在を突き止める。
「彼は『これは間違っている、正さなければいけない』と考え、そのための行動に出ます。しかしその『悪』には自分自身も含まれている。これはある種、贖罪の物語でもあるのです。僕は自分が演じるキャラクターには、たとえ悪人であろうと、どこかに道徳的な側面を見つけようとするんです。今回のアレックスもそうでした。彼の行動にはギリシャ悲劇のようなヒロイズムがある。そこが気に入っています」
アレックスが部屋番号や電話番号を腕に書いたり、重要な情報をメモリースティックに入れたりして記憶障害と戦う姿はリアルで切なくもある。さらに同じ病で記憶を失いつつある兄をホスピスに訪ねるシーンは、短いながら美しく心に残る。