ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載が、「今週のお務め」とリニューアルして始まりました。3回目のテーマは「市川猿之助さんと交わした『警戒心』」について。
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何か予想だにしない事件や事象が起こった時、人はそれに似た前例から得た情報と照らし合わせながら、どうにか理解しようと努めるものです。
しかし、中には人の想像や統計すらも超えてしまうぐらい、言わば奇跡のようなタイミングで感情が動き、物事が運んでしまうことがあってもおかしくありません。それでも、因果関係を突き止める手立てが僅かでも存在する限り、検証と裁定を行うのは、国家の務めです。
あくまで私は、個人的な経験、環境、思想そして共感をもとに想像を膨らませ、感情を整理しながら公共の面前で話をしたり、こうして文章を書いたりしているに過ぎず、行政にも司法にも携わっていない一市民が、その範疇に関する勝手な見立てや持論を述べることは極力慎むべきだと思っています。
市川猿之助さんの一件以降、心のどこかで常に彼のこと、彼に起きてしまったこと、彼が起こしてしまったとされることがずっと渦巻いています。私は、猿之助氏とは2度ほどしか会ったことはありませんし、長い時間言葉を交わしたこともありません。私と彼の数少ない共通点は、年齢と大学が同じというだけです。
初めてお会いした時、目の奥で互いの「警戒心」を交叉させた気がしたのを憶えています。私のような生業の人間は、時にその場に居合わせるだけで、相手にとって周囲から妙な詮索をされる引き金になってしまうというようなことが少なくありません。もちろんそれは私としても本意ではないため、自分よりも「自分といっしょにいる相手」が他人の目にどう映るかを、いつも気にする癖がついているのです。
あの日の私の感覚が正しければ、私たちは瞬時に余所余所しく距離を保とうとしました。しかし、裏を返せば、それは互いのもうひとつの共通点を確認し合ったということだったのかもしれません。