『水曜日のダウンタウン』で、そんな彼女のキャラを上手く使ったドッキリ企画が行われたこともあった。『ラヴィット!』にゲストとして出演したあのが、こっそり芸人たちの指示を受けて次々に奇抜な回答を出していったのだ。彼女の得体の知れない雰囲気がそのまま生かされた名企画だった。

黙って立っているだけでも圧倒的な存在感があり、アーティストとしては圧巻のライブパフォーマンスを見せる。演技も上手いし、バラエティでも立派な戦力になっている。客観的なデータだけで見るなら、才能にあふれたマルチタレントだと言ってもいい。

しかし、彼女には単純にそう言わせない何かがある。何でも器用にこなす、というより、何にでも食らいついて個の力だけで一点突破している、という雰囲気が漂っている。

たとえ話をしよう。基本的に人間の体は水に浮かぶようにできている。肺に空気が入って浮き袋の役目を果たすからだ。しかし、人間の中には、初めから水に沈んでしまいがちな人というのもいる。そういう人は、何もしなければ水に沈んで息ができなくなってしまうので、浮かび上がるために必死で手足をばたつかせ、水面に顔を出そうとする。

それを繰り返した結果、そういう人はいつの間にか普通の人よりも泳ぎが上手くなったりするかもしれない。そして、「水泳が上手いね」と褒められたりもする。しかし、実際にはその人はただ必死で生きようとしていただけだ。何もしないと浮かんでいられなかったから、仕方なくもがいでいただけだ。

あのは、この話の「沈んでしまう人」に似ている。生きるための技術としての芸術を生業とする人。だからこそ、人々は彼女のパフォーマンスに魅了され、彼女のトークに笑わされながらも、そこに何らかの切実さを感じて、ますます目が離せなくなる。

不思議と不気味の狭間で軽やかに舞い踊るあのは、強さとしなやかさを備えたモンスタータレントである。私たちの想像の及ぶ範囲を超えて、これからもどんどん新しいものを見せてくれるだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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