改めて1年後の今、AV新法とは何だったのか整理したい。
そもそもは成人年齢が18歳になったことが、全てのきっかけだった。それまで未成年者であれば、民法の「未成年者取り消し権」を使って契約を取り消せたが、それができなくなる。AV被害者の支援団体からすれば、被害者を救う法的根拠となる唯一とも言える手がなくなってしまう危機的状況だった。そのため支援者らが国会議員へのロビー活動を始めたのがはじまりだった。新法成立の3年も前からのことだ。ところがいつの間にか思わぬところに、もの凄いスピード感で着地していく。AV新法では未成年者だけでなく全ての出演者が救済対象になったのだ。もちろんそれ自体は良いことだが、重要なのはAVが法律で定義されることにあった。つまり、それまで建前上ではあっても「これは演技です」とされてきたセックスシーンが、リアルな性交もOKとされうるものになったのだ。
だからこそ、一部のフェミたちは法案が出た時に「これはまずいんじゃないか」という声をあげたのだった。そもそもの疑問として、AVが「ファンタジー」であるならば、なぜ性交の「演技」ではなく、「性交そのもの」が必要なのか。AV出演に苦しむ女性たちからは、演技を求められたことはない、ただ性暴力シーンを記録されているだけだ、という声も数多く聞かれている。だからこそ、AVでの性交を国が認めるような内容になるのは、被害者救済の目的からむしろ離れてしまうと懸念したのだ。そもそも新法成立の過程で「売春防止法」との兼ね合いがどうなるのか、という深い議論もされていないに等しかった。
また、この法案に対してAV業界に甚大なダメージを与えるという人もいたけれど、長い目で見れば(見なくても)むしろ逆である。AVが法律で定義されることによって、AV業界にとっては安定的に商品を供給できる都合の良いものになるはずだった。業界最大手のDMMがこの法案に関しては沈黙を貫いたように、巨大企業が守られる内容ともいえる。もちろん、「目の前に救える人が一人でもいたら救える法律がほしい」という被害者と支援者の切実さが、この法案を最終的には突き動かしたのだとは思うが、それでも、今となって思えば、待つべきだったのではないか、という思いがどうしても拭えない。