作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、AV新法について。
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昨年の今頃は、AV新法(AV出演被害防止・救済法)が成立してしまうのではないかとハラハラしていた。AV新法の問題点を書いたり、勉強会を開いたりなどして反対の声をあげていたけれど、結局昨年6月15日に議員立法で成立してしまったことは、今もずっしりと重たい。
あれから1年。AV新法はどれほどの効果をあげているだろう。施行から半年後の内閣府の発表によれば、全国のワンストップ支援センターにAV出演に関する相談が103件(6~10月)あったそうだ。もちろん全ての相談が、新法で解決できるものではなかったが、「相談できる空気ができた」こと自体を評価する声もある。AV新法前は「この法律ができたら救える人が毎月100人いる」と期待する声もあったが、残念ながらそこまで勢いのある話は支援団体からも聞こえてこない。施行前であっても救えた人は救えたし、施行後でも救えない人は救えない現実があるだけだろう。水面下の被害者の数はきっと変わらないまま。
一方、メディアからは、新法によってAV業界がダメージを受けているという報道は少なくない。実際のところはどうか分からないが、知人のAVセル店業者に聞いたところAVそのものが激減している認識はないという。施行前も施行後も国内での制作本数は年間平均3万本と言われている。というか、そもそもAVを見ている人たちから「新作が少なくなって困ってる!」「新法のおかげでAVが高騰した!」なんて話、聞かないですよね。それどころか、「AV新法」をネタにしたAVだってあるくらいの世界だ。男のエロはまるでタブーなき聖域なのか。「AV新法で女優がキャンセルしたから困った」とかいうようなAVタイトルを見てしまった時の、もう何も言えねぇ……という無力感に、私はまだ名前をつけられていません。