「リング上のレフリーから要請があった場合に即座に映像を準備します。それをリング下の3人のパネリストがチェックして最終的な判断を下す。VTS用カメラはリングを引きで撮るものが2台、リング下のハンディが2台、そしてコーナー上に1台の合計5台でした」

 VTSを行う際にはカメラマンはもちろん、映像を準備するスタッフの技量も必要となる。リング下のパネリストが判断しやすい適切な映像を即座に出さなければならない。良い映像があっても滞って時間を要しては意味をなさない。

「判断しやすい映像を短時間で準備する必要があります。該当シーンの瞬間だけで良いのか。少し前から見るべきか。ボクシングに対する知識も問われる部分です。もちろん担当者同士の呼吸も必要不可欠です」

 銀次朗の世界戦では6回に「ダウンか?スリップか?」の判定を巡りVTS活用があった。その他試合でもVTSが何度か使われたが、全てが滞りなく進んだ。

「万全な状態で臨みましたが、当日の緊張感は想像以上でした。銀次朗選手の試合に向け、前回VTRを流して盛り上げました。誰もがバッティングを思い出していたはず。会場全体の雰囲気が異様に感じました。終わった時には配信責任者として、務めを果たしたことへの安堵が大きかったです」

「VTS中には各選手陣営からの抗議の声がクルーの耳にも入ります。会場もザワザワしていました。その中で適切に対応できたと思います。明確な映像で公明正大な説得力を出せて、不透明決着とは誰もが感じなかったと思います」

 VTS導入によって「不透明決着」が激減することは間違いない。明確な形で勝敗が決まることは、選手とってこれ以上ない大事なこと。今大会を経験して今後へ向けての思いも強まった。

「VTSでは『全部の画が写っている』のが大事。それを使ってオペレーターが良いタイミングで、誰もが判断しやすい素材を出す。病院のエコー検査のように、色々な角度の映像を出せるようにしたい。選手、観客を含めた誰もが納得できるはずです」

「『VTS判定中等のインターバルが選手の回復につながる』『試合が間延びする』という懸念もある。これはサッカーのVARや野球のリプレー検証でも同様ですが、特にボクシングのような消耗を伴う競技では重要。ここはルールを定める各団体の方々に任せるしかない。我々は正確な映像を準備することに集中します」

次のページ
ボクシングへの興味と理解度を高めたい