もちろん、漫画を描くのが好きですから、やめてしまったら抜け殻になってしまうのではないかという思いもあります。社長としての責任感と漫画を描くのが好き、この2つが今でも漫画を描いている理由です。万が一、仕事としての漫画をやめてしまったとしても、きっと趣味で漫画やイラストは描き続けるでしょうね。そして月に2、3回はゴルフに行くでしょうし、けっきょく仕事をやめたところでスケジュールはあまり変わりませんね(笑い)。
■ペンを握ったまま死ねたら本望です
僕には理想の最期があります。それは漫画を描いている途中でペンを握ったまま死ねたら本望ということ。病院のベッドの上でなく、ずっと元気なまま、普段どおりの生活を送り、突然倒れてしまうピンピンコロリが一番だと思っています。まあ、もし長期入院することがあれば、それを生かして「入院 島耕作」を描きますかね(笑い)。
藤子・F・不二雄の藤本弘先生は、家人が「ご飯ですよ」と仕事部屋に声をかけるといつものように返事があったのに、いつになっても出てこないので娘さんが見に行くと、机で漫画を描きながらそのまま突っ伏して亡くなっていたといいます。
僕はその話を聞いて、これこそ理想の死に方だと思うようになりました。好きな漫画を描くことに没頭して、ペンを握ったまま往生することができたらいいなと思っています。だから、そこまで「島耕作」を描き続けることができるのであれば、最終回は、「絶筆」で終わるというのがいいですね。
(構成・文/山下 隆)
※「朝日脳活マガジン ハレやか」(2023年6月号)より抜粋
ひろかね・けんし
1947(昭和22)年、山口県生まれ。早稲田大学卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に勤務。74年に漫画家デビュー。「島耕作」シリーズなど数々の話題作を世に出し、のちに映画・ドラマ化される。小学館漫画賞、講談社漫画賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、日本漫画家協会賞大賞、さらに2007年には紫綬褒章を受章。シニアの生き方に関するエッセーも多く手がける。近著に75 歳の今が一番楽しい人生を送れているという弘兼さんが、自らの経験も踏まえてつづった『弘兼流 好きなことだけやる人生。』(青春出版社)など。