![作家、コラムニスト/ブレイディみかこ](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/d/3/840mw/img_d3e3d77cdd74cb6900b9de63621acf2258444.jpg)
英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。
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近年、英国で使われてきた物価高に関する流行語に「コスト・オブ・リビング・クライシス(生活費危機)」「ヒート・オア・イート(暖房をつけるか、食べるか)」がある。今年は「グリードフレーション」という言葉を聞くようになった。これはグリード(強欲)とインフレーションを合わせた造語だという。企業の強欲さによる便乗値上げがインフレを起こすという意味だ。
インフレの犯人捜しには一応の説明があった。まず、コロナ禍である。「巣ごもり需要」はあるのに行動規制で供給が制限され、需給バランスが壊れ、物価が上がった。この状況が緩和されそうになると、今度はウクライナ侵攻によるエネルギー価格ショックで、インフレ第2波が訪れた。とはいえ、エネルギー価格は2022年のピークから下落したので、その影響は弱まるはずだ。が、英国にはインフレ第3波が訪れている。
英国の食料品価格上昇率は、今年19.2%を記録、過去45年間で最高と報じられた。大手スーパー、セインズベリーズのCEOは、スーパーは便乗値上げをしていないとBBCに語り、むしろ業績は悪化していると主張した。しかし、その数週間後に、彼の年収は前年から大幅アップの約500万ポンド(約9億円)だったとわかり、話の整合性を疑う声が上がった。
欧州中央銀行(ECB)の総裁も、「複数のセクターの企業が、需要と供給の不一致や、高止まりで変動するインフレによる不確実性の裏側で、利益幅を増大することができた」と語り、企業がどさくさに紛れて儲けていることをほのめかした。グリードフレーションの特性は、「見破られにくい」ことだ。「コロナが」「戦争が」と言い訳されると、例外的な事象ばかり起きているから値上げもしょうがない気分になる。グリードフレーションの別称「エクスキューズ(言い訳)フレーション」という言葉があるのはそのせいだ。
物価を決めるのは需給バランスだが、それだけではない。「グリード」という変幻自在の要因もある。それはチャンスに便乗してスッと現れる。そして知らぬ間に広がっているカビのようにびっしりと繁殖し、経済を機能不全に陥れるのだ。
ブレイディみかこ(Brady Mikako)/1965年福岡県生まれ。作家、コラムニスト。96年からイギリス・ブライトンに在住。著書に『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『他者の靴を履く』『両手にトカレフ』『オンガクハ、セイジデアル』など
※AERA 2023年7月3日号
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