Joshua W. Walker/日米交流団体ジャパン・ソサエティー(本部ニューヨーク)理事長。国際政治学者。米国生まれ、日本育ちのバイリンガル
Joshua W. Walker/日米交流団体ジャパン・ソサエティー(本部ニューヨーク)理事長。国際政治学者。米国生まれ、日本育ちのバイリンガル
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 ウクライナ戦争から1年以上が過ぎたが、戦争終結への道筋は見えない状況が続いている。米国のバイデン政権の外交政策、和平交渉の行方について、日米交流団体ジャパン・ソサエティー理事長のジョシュア・W・ウォーカー氏に聞いた。AERA 2023年6月19日号の記事を紹介する。

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 バイデン米大統領が主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、ウクライナのゼレンスキー大統領に米戦闘機F16の他国による提供の容認と訓練の支援を伝えたのは、間違いなく「大ニュース」だった。

 例えば2年前にロシアがウクライナに対し全面的な侵略戦争を仕掛け、しかも西側諸国が団結して対抗すると誰が思っただろう? F16の提供は、それと同じほど誰もがかつては予測しなかった。

 しかし、F16が戦争を終わらせるとは思えない。私のワシントンの人脈から知る限り、バイデン政権は(各方面との)コミュニケーションに長けていない。「見せ場」は作るが、きちんと議論していない。まるで現在の世界経済のように、堅調というわけではなく、かなり先行き不透明な不安が漂っている。同様に、ウクライナでの戦争がすぐに終わるという見通しは立たないでいる。ロシア軍はウクライナ国内にとどまり、「膠着状態」というのが現状だろう。

 バイデン政権は今のところ、微妙なバランスを取ろうと懸命になっている。ロシアが核兵器を使用するか、あるいは、絨毯爆撃を展開するのを抑止するために、あらゆる手段を試してみているという状況だと思う。この二つの攻撃が、米国と北大西洋条約機構(NATO)にとっては「レッドライン」、つまり現状から、軍事的解決を選ばざるを得ない想定となる。

 しかし、一方、米国内で(イラク戦争やアフガニスタン戦争で)厭戦気分が広がっている中、バイデン氏はロシア軍と戦闘するために米軍やNATO軍を送りたくはない。

 和平交渉に向けて、日本が何かの役割を果たせるのか? 米国、欧州だけがその主要メンバーとなるのは、日本にとってはあまり居心地の良くない状況だろう。ウクライナにおける和平は、アジアを含めたグローバルな要素が必要だ。ロシアから原油を購入しているインドも無視できない存在となる。

 ただ、日本人だけでなく世界の人々が、米国が和平に向けてリーダーとなるべきだと思っている。そこで、仮に日本が和平をリードするという状況は、岸田首相の性格を考えても可能性は低いだろう。同時に、保守的な日本人には理解できないと思う。

 米国内をみると、2024年大統領選挙に向け動き出している。今後1年半にわたり、政治的な優先事項は選挙にフォーカスされる。民主主義国家として非常に活発な国とされてきたが、残念なことにバイデン氏対ドナルド・トランプ前大統領という高齢白人男性が本選挙の大統領候補となる可能性が高い。その意味で、米国は1年半の間、ウクライナでの戦争を含めて世界情勢に対して、手足を縛られた状態となる。

取材・構成=ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク)

AERA 2023年6月19日号

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