その直子さんの物語の原動力は純粋な想像力や、面白がる力、好奇心。卒業設計も見せていただいたが、宇宙のホテルの設計図が描かれていた。銀河鉄道999に憧れて、みんな大人になったら宇宙に行くんだと思っていた少女は、大人になってスペースホテルの設計までして、そして本当に宇宙に飛び出していく。「細胞一つ一つが懐かしがっているというか、喜んでいるような、そんな感じでした」。私は直子さんから、しっくりくるこんな言葉を聞くことができた。初めて宇宙に行ってみたいなと思えた。直子さんはこうも言った。
「宇宙へ行くのは特別な場所に冒険しに行くような感じがしてたんですけど、行ってみると、ふるさとを訪ねにいっているような」
それは細胞レベルでの話だそうだ。三半規管だけじゃなくて細胞一つ一つが重力を感じるという説があるらしい。そんな直子さんが今持っている夢が、月に寺子屋をつくることだそう。聞いてみると、「中高生や大学生ぐらいの皆さんが、国籍関係なく月に来て、地球を見ながら一緒に学んで、それぞれが地球に戻って成長していったら、人はもっと協力しやすくなるんじゃないかなって」。
この、人はもっと協力しやすくなるんじゃないか、に泣きそうになった。直子さんは理想とかきれい事じゃなく、本当にやろうとしているのだった。つまり、もう地球を離れないと、地球のことを客観的にみて、謙虚になれないんじゃないか、と。この地球にお邪魔している生き物のひとつなんだと実感することで、平和が訪れるのではないか、と直子さんは考えているのかなと思った。
大宮エリー(おおみや・えりー)/1975年、大阪府出身。99年、東京大学薬学部卒業。脚本家、演出家などを経て画家として活躍。クリエイティブのオンライン学校「エリー学園」「こどもエリー学園」を主宰。瀬戸内国際芸術祭(岡山県・犬島)で「光と内省のフラワーベンチ」を展示
山崎直子(やまざき・なおこ)/1970年、千葉県出身。93年、東京大学工学部航空学科卒業。96年、同大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了。宇宙開発事業団(現・JAXA)に入社。99年、宇宙飛行士候補者に選抜され、2010年、スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗
※AERA 2023年6月12日号