「ツイッターを見ても日本は75%が匿名投稿です。これは他国と比べても多い。日本は2ちゃんねるからネット文化に入っているので匿名が当たり前のようになっています」

 匿名では発言に責任がなくなるので、民主主義社会は成り立たないことは誰にもわかるが、実名の場合発言者にもメディアと同様に責任が出てくる。ノンフィクションと謳いながら、主人公を仮名にしている作品もあるが、それはノンフィクションではなくフィクションになる。

「最近<寄り添う報道>という言葉がよく使われるが、相手が傷つく報道はよくないという考え方です。突き詰めれば報道ではなく、広報になってしまう。今の言葉で言うと<ステマ>と同じです」

 匿名にすると訴訟になるリスクもなくなるので、確かにコストは下がる。

「そうすると最後に割を食うのは質の悪い情報を与えられる市民になります」

 SNSによる偽情報の拡散は頗(すこぶ)る深刻な問題ではあるが、情報の正確さの見極めは実名報道の情報源がカギとなる。

 本書は報道する側はもちろん、日々さまざまな情報に接する一般市民にもぜひ読んでほしい教科書とも言うべき力作である。

(ジャーナリスト・大野和基)

AERA 2023年6月5日号