『IN CONCERT / LIVE AT THE FILLMORE』DEREK AND THE DOMINOS
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『LIVE AT THE FILLMORE』DEREK AND THE DOMINOS ※94年、未発表曲など7曲を加えたリマスター/新ミックス盤

『レイラ・アンド・アザー・アソーテッド・ラヴ・ソングズ』のレコーディングを終えるとデレク&ザ・ドミノスは、仕上げはトム・ダウドに任せ、ツアーを開始している。1970年9月23日、イングランド南東部のイースト・サセックスからスタートしたこのツアーは、ほぼ毎日ステージに立つペースで10月11日まで英国、10月15日から12月6日まで米国各地を回るというもの。アルバムの発売は11月だったので、クラプトンが望んでいたとおり彼らは、一般的なイメージとしては正体不明のバンドとしてツアーをつづけたことになるわけだ。実際、クラプトンの新プロジェクトへの関心はそれほど高まらなかったようで、危機感を覚えた発売元は、正確な時期はわからないが、「デレク・イズ・エリック」とプリントされたバッジをつくったりしている。

 このツアーには、残念ながらというべきか、もちろん、ドゥエイン・オールマンは参加していない。クラプトンは彼の同行を期待していたはずだが、ドゥエインにとってはオールマン・ブラザーズ・バンドの活動を軌道に乗せることがなによりも大切なことだった。彼はすぐバンドに復帰し、翌71年春録音の名盤『アット・フィルモア・イースト』を残して、同年10月29日、24歳の若さで他界している。

 73年1月にリリースされたドミノスのライヴ盤『イン・コンサート』は、70年のツアー中、10月23日と24日、フィルモア・イーストでの各日2回のステージで残された音源をまとめたもの。彼らは録音されていることを知らなかったといわれているが、その真偽はともかく、ジミ・ヘンドリックスとの仕事で知られるエディ・クレイマーがエンジニアを務め、2枚組9曲収録の作品としてまとめられたものが、クラプトンがまだ深い闇のなかにあった時期に世に送り出されたのだった。94年には、そこからの6曲に未発表トラックなど7曲を加えたリマスター/新ミックス盤『ライヴ・アット・ザ・フィルモア』が発売されている。

 プログラムは、この時点では発売前だった『レイラ』、発売直後ということになる初ソロ作『エリック・クラプトン』の収録曲が中心。ブラインド・フェイスの《プレゼンス・オブ・ザ・ロード》、ドミノスの次作に入るはずだった曲で、スライ・ストーンあたりを意識したと思われる《ガット・トゥ・ゲット・ベター・イン・ア・リトル・ホワイル》、クリーム時代よりもぐっとテンポを落とした《クロスロード》なども取り上げられている。

 バンドとしてのドミノスのパワー、メンバー間のケミストリーは、この時期、頂点にあったようだ。18分の《レット・イット・レイン》、13分の《ガット・トゥ・ゲット・ベター・イン・ア・リトル・ホワイル》など長尺のパフォーマンスからも、無駄な部分が感じられない。クラプトンはヴォーカリストとしての自信をさらに深めたようで、《プレゼンス・オブ・ザ・ロード》もきっちりと自分で歌っている。

 アルバム『レイラ』に収めた《リトル・ウィング》は、作者ヘンドリックスに聞かせたいという想いで録音したものだろう。同時期、クラプトンは左利き用のストラトキャスターを彼へのプレゼントとして手に入れていたらしい。だが、フィルモアでその名曲を演奏したとき(94年盤に収録)、ジミはもう、この世にはいなかった。[次回11/12(水)更新予定]

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