選挙において当選見込みの低い候補者を「泡沫候補」と呼ぶ。本書は世間から「色物」扱いされ、まともに耳を傾けられにくいその存在に密着したユニークな取材記。映画「立候補」を下地に、監督自身が書き下ろしたものだ。
 何人かの候補者にスポットを当てているが、とりわけ強烈な印象を与えるのがマック赤坂氏だ。演説では所構わず歌って踊り、政見放送でコマネチ。一見理解不能だが、「破天荒なことをやっているだけで中身は純粋」と語る秘書、一流商社マンを経た今は「爆発している時期」と見る息子など、少数ながら理解者の姿がある。当初は戸惑いが大半を占める取材に、次第に対象者への敬意が入り交じる。著者は最終的には「泡沫候補」という言葉が取材対象者らを傷つける可能性に思い悩んだと回想するが、こうした視点の変化が包み隠さず描かれているのが魅力だ。
 知事選の立候補にかかる供託金は300万円、演説には地域(場所)制限がないなど、本書を通じ選挙制度について驚きをもって知る事実も多い。。

週刊朝日 2014年10月17日号