軍歌にはけっこういい歌がある。『雪の進軍』とか『愛馬進軍歌』とか、たまに口ずさんでいることもある。困難に直面すると「すぎのーはいずこーすぎのーはいずやー」などと歌うこともある。
 この本は「軍歌紹介本」ではなくて、どのような過程で日本の軍歌が成立していったかが眼目だ。
 まず、明治時代の初期の軍歌は、西洋音楽を学んだ作曲家、東京帝大総長になるような文学者による作詞、今で言えば……といっても思いつかないぐらいのエリートなメンツで作られてたのだ。なぜかといえば「国策」だからで、国が強くなるために軍隊が強くなる!そのために勇壮な応援歌を! 先端の音楽と格調高い詞を! ということで、当時のトップエリートが用いられたわけですね。
 じゃあ軍歌が高尚なエリート音楽になったかといえばそんなわけはなく、圧倒的多数の庶民がガンガン「歌って」くれないと意味がないので「軍歌」。つまり軍歌は「庶民の愛好する歌=流行歌」にならなければならないのだ。そりゃマニアにしか愛好されないとか、上流階級のたしなみでは困りますわな。
 黎明期の軍歌がどのように生まれてどのように流通し流行していったか。外国の軍歌が和訳されて歌われたり、日本の軍歌「日本海軍」が北朝鮮で「朝鮮人民革命軍」という替え歌となっていたり、なんて話には「へー」と思うけれど、これが流行歌だと思えば、洋楽に日本語乗っけて歌う弘田三枝子とか東京ビートルズとかと同じで、ごくふつうの話である。
 他にもマニアックな軍歌にまつわるネタがいっぱい載ってて面白いのだが、この「軍歌は流行歌」という部分がいちばん重要で、つまり「軍歌は昔の話じゃない」ということ。これ読んでて、エリートによって作られた初期の軍歌と、安倍首相がASEAN夕食会でEXILEとAKB48に歌わせたって話は同一線上にあるような気がした。そこに選ばれることと、その歌手の関係については、また別に論じなきゃいけないわけだが。

週刊朝日 2014年10月3日号