それでもなんとか彼女たちの生活は回っていく。この「なんとか」というのが本作のキーワードだ。自分の意志だけではどうにもならないことを抱えながら、それでもなんとか生きている人々を、本作はとても繊細に描いている。

 その対象は、主人公格の理佐&律だけではない。省略されがちな脇役(モブ)たちの人生も余すところなく描かれている。1981年、91年、2001年、11年、21年と時間が推移していくので、彼ら彼女らの成長・変化がじっくり観察できるのもいいところだ。

 律と仲良しの「寛実」の特技がピアノであること。音楽好きが高じてラジオ局のDJになったあと、東日本大震災の報道に関わるようになること。発電所の仕事をするため町にやってきた「聡」が、理佐の後任としてネネの世話をするようになること。やがてふたりは恋をして、夫婦になること。いじめっこたちに振り回されがちだった中学生の「研司」が、律のお陰で自分を持てるようになること。成人後は震災復興に興味を示し、町から出て行こうとすること。

 もちろんこれは小説だから、小説的に盛り上がる事件が起こったりもする(姉妹を追いかけてきた母親の婚約者をネネがさまざまな声色を使って追い返すとか)。けれども、物語の起伏より各キャラクターの人生を追うことに、本作の真の愉しみがあると思う。

 ヨウムは50年生きるとも言われる長寿の鳥だから、人間の伴走をするのはお手の物。「わたし、は、ネネ!」。決して派手とは言えない人々の営みも、ネネがこうして声をかけてくれるお陰で、俄然キラキラと輝いてくるのである。

週刊朝日  2023年3月24日号

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