いまどき『資本論』だって? と内心つぶやきながら読みはじめ、いまこそ『資本論』だ! と強く思って読み終えた。佐藤優『いま生きる「資本論」』は、市民向けにマルクス『資本論』を講義した記録である。1回90分の講義を6回。わずか9時間であの大著を把握するというのだからすごい。もちろん細部まで検討するのは無理なので、『資本論』を山脈に見立て、頂から頂へとヘリコプターで移っていきながら全体を把握する。あとは各自で読め(そして考えろ)ということだ。
 宇野弘蔵の読み方をベースに、おもに向坂逸郎訳の岩波文庫版を使いながら、ぐいぐいと読んでいく。しかもたくさんの参考書を紹介しながら(古書店でいくらぐらいなら「買い」なんて情報も)。
 身近な事象を例にするのでわかりやすい。たとえばビットコインとマルボロと刑務所の石鹸の話とか(これじゃ何の意味かぜんぜんわからないでしょう?)。でももっと面白いのは、脇道の部分だ。論文は起承転結で書いてはいけないとか、酒井順子『負け犬の遠吠え』がベストセラーになったのは排中律を使って負け犬を定義したからだとか、佐藤が大量の媒体に書いているのは自分の身を守るためだとか。
 なぜいま『資本論』なのか。それは世の中がことごとく資本主義化してしまったからだ。言い換えると、ゼニカネの勘定がすべてになってしまったからだ。人を年収や資産のモノサシで見たり、夢や希望といえば「あれが欲しい」「これを買いたい」とカネをつかうことばかり。安倍内閣の支持率が高いのだって、ゼニカネのことについて支持している人が多いのであって、解釈改憲だの特定秘密保護法だのが支持されているわけじゃない。しかしゼニカネばかりじゃ息苦しい。
 だからこそこの本の最後の最後で、ゼニカネに還元されない直接的人間関係の重要さを示しているのは心にしみる。

週刊朝日 2014年9月5日号

[AERA最新号はこちら]