琵琶湖のほとりに暮らす村井理子さんのエッセイ30編が一冊にまとまった。『はやく一人になりたい!』(村井理子、亜紀書房 1485円・税込み)では、双子の息子の子育て、愛犬ハリーとの冬、亡き兄の記憶など、普段の生活や家族、食について綴っている。
書名になった一編「はやく一人になりたい!」では、翻訳の仕事が楽しくてたまらず、家族が出かけて集中できる時間が待ち遠しいと明かす。
「翻訳には言葉を当てはめるパズルゲームみたいな楽しさがあるんです」
英語を日本語に訳していくと「頭のなかで、カシャッ、カシャッ、と音が鳴るような感覚」があり、パズルが完成したときは大きな達成感が得られる。
最近はエッセイの依頼が急増して、翻訳とエッセイの仕事が半々くらいになっている。
「翻訳は原書があるので、お手本をきれいに清書していくようなイメージです。誠実に進めればいいから気が楽なんですけど、エッセイはゼロから書かなくちゃいけないので、ずっと大変です」
とはいえ、村井さんは30代で書籍の翻訳を始める前からエッセイを書いていた。派遣社員をしていた20代後半、友人が作成したウェブサイトに寄稿することになったのだ。
90年代当時のネットはまだテキストが中心だった。どう面白く書くかが勝負という中、村井さんの読者はどんどん増えていった。結局、毎日4千字を8年休まずに書き続けた。その頃から20年以上になるファンもかなりいて、「息子さんが成人するまで見守りたい」と言われることもある。
「書くことはめちゃくちゃに楽しい。今、仕事で日記を書いていますが、手帳にまた別の日記を書くくらい好きですね。日常のちょっとした出来事をドラマにして誰かに言いたいという欲求があるんです」
銀行やスーパーに行くとさりげなく人を観察し、あの客はなぜ怒鳴っているのか、といったことをメモしておく。そういうパーツを組み合わせてエッセイが生まれるのだ。