最初はてっきり、本多勝一の『リーダーは何をしていたか』みたいな、冬山遭難事故のリーダーを、それが死者であってもビシビシとムチ打ってそのダメさを浮かび上がらせるという本だと思って読み始めたのに、どうも思っていたのとは違う方向に行った。
 ザックリいうと、人々がカネを持つようになり欲望もどんどんふくれあがり、「本来、そこに行くべきではない人が行ってしまうようになる」ことが「マス・ツーリズム」であり、カネの力でどうにでもなると思ってる人びとの集団をひきつれた登山や秘境探検は、必然的に事故を引き起こす、という主張である。本多勝一が、事故が起きたパーティーの「リーダー」を責めまくるのに対して、こちらは「そういうパーティーができあがってしまった構造」を問題にしている。
 いまやカネさえあればエベレストさえ素人でも登れてしまうのだ。大富豪にカネを積まれてガイドも判断を誤る。「なるほどな」と思える。20年間旅行代理店に勤めた経験のある著者の言うことはもっともだ。しかし、読んでいて何かモヤモヤとするのだ。じゃあどうしたらいいのか、という話になると「カネとヒマにあかせて危険なことを遊び半分でするな」ということだろうが、人間、余裕ができたら気も抜きたいし手も抜きたいし楽しみたい。営利企業だって、大多数は「顧客の幸せ」を望んでると思うのだが。「余裕ができてちょっと山に登りたい」という「客の要望」だって叶えてあげたってよかろう。それが「豊かになった」ということではないのか。
 などとブツブツ言いながらも、ここで紹介されている遭難事故の詳細を読んでいると、そういえば北海道のトムラウシ山の遭難事故ってテレビでやってたなあ、気楽に山なんか登るまい、と決意する。だが、次の瞬間には「でも、山じゃなくても、気楽に危険なことをしてしまうというのが人間だ」という気持ちも、同じぐらい湧いてくる。

週刊朝日 2014年7月11日号

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