著者の吉田さんは、はっきりいって「地味」な選手だったのだけれど、若いうちに現役引退する選手が多い中、鹿島アントラーズなどで39歳までJリーガーとして活躍した。この本はそうした地味な著者による「ゲームで使われるのは、ふだんどういうことをやっている選手なのか」の解説。
 最初に「うまい選手が試合に出るのではない」という小見出しがあり、自分のようなナマケモノは「そうか、なら仕事もうまくなる必要はないな!」などと喜んでしまう。もちろん、そんな内容ではない。「サッカーというチームスポーツは、1+1=2では十分」ではなく、「出場することで1+1を3にも4にもできる、相乗効果を発揮する選手」こそが必要なのだ、という話だった。
「『自分は何も持っていない』と知る」という小見出しもあり、これは自己啓発系に行くのか、と身構えるが、「伸びる選手に共通しているのは、『僕は何も持っていない』からスタートしていること」だと書く。周りは自分より上の人間ばかりだと自覚しているので、あらゆることを吸収できる。
 聞き飽きたような話なのだが、サッカーの話として聞くと、ちょっと新鮮だ。というのも、サッカーに興味のない人間にとってサッカー選手はEXILE崩れの半芸能人みたいにしか見えず、マラドーナが目を血走らせて何人抜きとかやったW杯の試合とかなら「ほお」と見ることもできるが、日本のJリーグの試合とかはどうもタルくて「ぜったいラグビーのほうが見てて面白いよなー」などと言っていたので、こういう堅実な文体で、チャラチャラしていないサッカー選手の地味な競技論を読むと「サッカーって案外クロウト向けな競技なのかも」と思った。
 W杯で盛り上がっているようだが、私がどうしても、見かけだけで好きになれない某選手(伏せてるんじゃなくて名前知らないんです)も、こういうことをちゃんとやってるのか……と知って「負けた……」と思った。

週刊朝日 2014年6月13日号

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