つい買っちゃうんだな、この著者の「財閥シリーズ」。
家から駅まで歩いていく道に、いかにも由緒のありそうな豪邸が建っている。こういう家の中はどうなってて、どういう顔の人が暮らしてて、晩ごはんは何食べてんだろう。いや晩じゃなくて朝ごはんとかのほうがうちみたいなビンボー&だらしない家庭との違いが際立つだろうか。などと考えながらぼけーっと豪邸を見ている、というような経験ありませんか。つい、地方財閥の本を読んじゃうというのは、あの豪邸の中を覗いてみたい、という気持ちがどっかにあるからだろう。
この本は地方財閥の屋敷の間取りとか「財閥当主の一日」なんてことが載っているわけではなく、昭和9年(1934年)発行の『帝国興信所調査 五十万円以上 全国金満家大番附 附全国多額納税者一覧』で各都道府県のベストテンを見ていき、今に残ってる財閥やら、今は消えた家やら、名前は知られてないけど今も隠然とその土地で力を持つ家やら、そういうのを紹介してあるだけだ。でも、読み込んじゃうんですよね。
それにしても「金満家大番附」ってのはすごいな。悪い人みたいである。この本を読む上での楽しみの一つに、パッとページをめくって適当な県の番付を見るやり方がある。広島の1位、鎌田憲吉とあって、読んでみると株で儲けた「いわば一時的な成金とみられ」とあり、じゃあ現在鎌田さんの一族はどうしてるんだろう、どんな家に住んでるのか、広島だと白島あたりに屋敷があるのか、それとも賃貸か……と、想像は果てしなくふくらんでいくわけです。
各地方財閥のちょっとした系図も載っている。系図ということは、現在まで続いているわけで、たいがい「ええっ、こんな有名人があんな有名人と姻戚!」という発見があるものだが、地方財閥だとそれほどの有名人が出てこず、でもよく知らない人びとの系図で「娘の名前が桃子かあ」などとぼんやり眺めるのも楽しい。
※週刊朝日 2014年5月2日号