
1979年も例年並みの44組が来日した。主流派が最多の12組、あとは新主流派、フュージョン、フリー、ヴォーカル/スイングに四分される。略称でも間に合いそうな大物は、主流派ではロリンズ(1月)、ブレイキー(2月)、ファーマー=フラナガン(5月)、ペッパー(7月)、オスカー(11月)、新主流派ではマッコイ(3月)、キース(4月)、「V.S.O.P.クインテット」(7月)、フュージョンではメセニー(3月)、チック(7月)、フリーではシェップ(3月)、ヴォーカルではカーメン(6月)、メリル(9月)らだ。25組が34作を残している。日本人との共演盤はスタジオ録音では23作中15作もあるが、ライヴ録音では11作中1作しかなかった。これは上々と、その1作と未CD化、入手難、水準作を外したら、ペッパーの『ランドスケープ』(JVC)と「V.S.O.P.クインテット」の『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ』(Sony)しか残らなかった。今回はペッパー作だ。
1977年4月、ペッパーは初来日を果たす。麻薬で何度もお務めした前科から入国できず公演が流れるのをおそれ、カル・ジェイダー・グループの一員(ゲスト)として招かれた。だが駆け付けた聴衆の狙いはペッパーだ。第2部で登場すると怒涛の拍手喝采を浴びる。すっかり日本贔屓になり急逝の前年まで5年続けて来日した。初来日時の東京公演の記録『ファースト・ライヴ・イン・ジャパン』(Galaxy)に聴くペッパーは異質の顔合わせが足を引っ張って、本領を発揮できていない。78年3月には晴れて自己のグループを率いて来日した。山形公演の記録『マイ・ローリー』『思い出の夏』(Trio)は上々の出来だ。推薦盤は3度目の来日時、79年7月16日・23日に催された東京公演の模様を収める。元となった国内盤(以下JVC)の未収録曲は81年の来日記念盤『ベサメ・ムーチョ』と2007年の完全版『ザ・コンプリート・トウキョウ・コンサート1979』で陽の目を見てきた。
両日ともにプログラムは大差ない。第1部では《トゥルー・ブルース》《アヴァロン》《ザ・トリップ》または《いそしぎ》《ランドスケープ》《サムタイム》《マンボ・デ・ラ・ピンタ》の6曲を、第2部では《レッド・カー》《虹の彼方に》《マンボ・コヤマ》《ストレート・ライフ》の4曲とアンコールで人気曲《ベサメ・ムーチョ》を演奏した。ほぼ快演級が並ぶ16日の第1部が最上で、半数が快演級の23日の第2部がそれに次ぐ。調子の維持が難しかったのか、16日の第2部と23日の第1部は元気がなく精彩を欠く。『ランドスケープ』と重複なし、ほぼそれらの演奏から選んだ『ベサメ・ムーチョ』には落ち穂拾いの感がある。《いそしぎ》は快演級だが、それ狙いで買うまでもないだろう。優れた演奏(ペッパーの指示!)は『ランドスケープ』に集中している。ともに未収録の《マンボ・コヤマ》は――捧げられた児山紀芳氏には悪いが――さほど面白い演奏ではない。
概ねテーマ→アルト・ソロ→ピアノ・ソロ→アルトとピアノかドラムスとの小節交換→テーマという流れだ。幕開けは新作《トゥルー・ブルース》、鳴りも乗りも上等、即座に快ライヴを確信する。淀みなくブルージーに歌いあげてご機嫌。新作《サムタイム》では珍しいことにクラリネットを手にする。レスター流の寛いだトーンと語り口に頬も緩む。同じく新作《ランドスケープ》は曲想はモーダルだが演奏はコーダル、燃えあがる手前で踏みとどまり説得力に富む演奏となった。旧い小唄《アヴァロン》ではかつての軽やかな歌心も聴けて喜ばしい。圧巻は《虹の彼方に》だ。情緒綿々たる昔の演奏とは様変わり、内省と情動、揺れる思いを描き出して胸を打つ。翌年に発刊される自伝のタイトルとなる旧作《ストレート・ライフ》では急速で即興魂を迸らせる。ケイブルスが一番の出来だ。旧作《マンボ・デ・ラ・ピンタ》は弾むように奔放に吹き連ねる楽しい聞き物になった。
サイドメンはと言えば、ジョージ・ケイブルス(ピアノ)は上々ながら決定打を欠く。もうチト覇気があれば傑作ライヴになったかも。トニー・デュマス(ベース)はテンポと音の選択に難あり。徒に激さず快適なライヴに導いたのはビリー・ヒギンズのセンスあるドラミングだろう。ペッパーは無暗に煽らない彼ではやりづらかったのかもしれないが、晩年に好んで使ったドタバタ・ドラマーたちには望みえない品格ある快ライヴになった。
後発の『ベサメ・ムーチョ』と『ザ・コンプリート・トウキョウ・コンサート1979』に『ランドスケープ』収録曲に勝る未発表曲はない。発掘が価値を薄めるのはライヴ盤ではよくあることだ。ペッパーの進行と聴衆の反応を未編集で収めた後者では2日間の模様がそっくり再現されるが、ペッパー・フリークを除けば『ランドスケープ』で充分だろう。国内盤は入手難で高価、《マンボ・デ・ラ・ピンタ》を追加した推薦盤が価格も手頃。[次回5月19日(月)更新予定]
【収録曲一覧】
Landscape / Art Pepper (OJC-Galaxy [JVC])
1. True Blues 2. Sometime 3. Landscape 4. Avalon 5. Over the Rainbow 6. Straight Life 7. Mambo de la Pinta (OJC only)
Art Pepper (as, cl-2), George Cables (p), Tony Dumas (el-b), Billy Higgins (ds).
Tracks 1-4, 7: Recorded at Yubin Chokin Hall, Tokyo, July 16, 1979.
Tracks 5, 6: Recorded at Yubin Chokin Hall, Tokyo, July 23, 1979.
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