AERA 2023年3月20日号より
AERA 2023年3月20日号より

■夫と夕食を食べたい

 転職や再就職は、結婚や子どもの有無にかかわらず、多くの女性が直面する問題だ。多様な働き方が広がる中、より自分に合う働き方を模索する人もいる。

「給料は半分以下。でも幸福度は倍近いと思う」

 こう笑うのは、四国在住の女性(44)。4年前に結婚し、夫と二人暮らし。1年前まで旅館に正社員として勤務していた。子育て中の女性も多い職場で、子どもがいない分、人手不足になる夜間のシフトも積極的に買って出ていた。職場の人間関係は良好で、居心地も良い。まさか自分がこの職場を辞めるなんて、思ってもみなかった。

 きっかけは夫の一言だった。

「一緒にご飯を食べられるのはええなあ。いつもテレビに向かって食べよるから」

 夜間の勤務が多い女性は、夫と食事のタイミングが合わないことが多く、それぞれがテレビに向かって食事するのがいつしか当たり前になっていた。そんな中、久しぶりに早く帰宅した日、夫がこぼした一言が、思いのほか心に響いた。

 時は新型コロナウイルスが広がり始めた頃。立ち止まって考える時間ができた時だ。

■あえてキャリアダウン

 転機となったのが、自宅近くの飲食店のアルバイト従業員の募集だ。賃金は、旅館の半分以下だが、シフト申請は自分次第で調整できるため、まとめて働くこともできれば、少なめに働くこともできる。休みたい時に休めるのも大きい。無論、今正社員を辞めたら、年齢的にも正社員への復帰は難しいだろうと思った。だが、80歳を人生の期限とするなら、折り返し地点を過ぎた年齢。これからどう生きたいのか、真剣に考えた。周囲からは心配する声が多かったが、夫とも話し、「ぜいたくしなければやっていける」「時間を大切に生きてみよう」となった。

 女性は現在、その飲食チェーン店で週に4日、早朝から昼まで、アルバイトとして働いている。週に3日は丸々自由な時間で、転職後に始めた菜園にのめり込む。時間のゆとりが、大きな充実感と幸福感をもたらしてくれるという。

「私の転職は、キャリアアップならぬ、あえての“キャリアダウン”。子どもがいてもいなくても、その選択肢は自分次第で選べるし、キャリアを積む以外の幸せもある」(女性)

 働く上での価値観は人それぞれ。女性がキャリアを築く上での壁も存在するが、コロナ禍を経て、柔軟な働き方や多様な選択肢が広がったのも事実だ。自分らしい「働く」を考えるなら、あなたは何を選びますか?(ライター・松岡かすみ)

AERA 2023年3月20日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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