まだ可能性は枯渇してないと確信させられる傑作 / 『ノー_ワン・エヴァー・リアリー・ダイズ』N.E.R.D(Album Review)
まだ可能性は枯渇してないと確信させられる傑作 / 『ノー_ワン・エヴァー・リアリー・ダイズ』N.E.R.D(Album Review)

 ファレル・ウィリアムス、チャド・ヒューゴ、シェイ・ヘイリーの3人によるヒップホップ/ロック・グループ、N.E.R.D(エヌ・イー・アール・ディー)の7年振り、5作目のスタジオ・アルバムは、“誰も本当の意味では死なない”というグループ名『ノー_ワン・エヴァー・リアリー・ダイズ』をタイトルにした意欲作。

 アルバムの完成までに、ダフト・パンクの「ゲット・ラッキー」(2013年/全米最高2位)やロビン・シックの「ブラード・ラインズ」(2013年/全米12週1位)、そして2014年の全米シングル年間首位に輝いた自身のシングル「ハッピー」など、大ヒットを連発させたファレルだが、ソロ活動とはしっかりラインを引き、N.E.R.Dのオリジナリティを意識して楽曲を制作している。思えば、ザ・ネプチューンズとしてスヌープ・ドッグやジェイ・Zなどに曲を提供していた2000年代前半のデビュー作『イン・サーチ・オブ... 』(2001年)や、2004年の2nd『フライ・オア・ダイ』も、それらのヒット曲とは全く違う内容だった。N.E.R.Dとしての活動は、売れ線や流行を一切無視した、N.E.R.Dでしか出来ない、唯一無二の音楽をやっていることが何よりの魅力。

 ファレルは、本作について「ある感情から突然、君達の耳で違うものに変化するような音楽を作りたかった。トランスフォーマーを観ている時、走ってきたトラックが突然君の前で立ち上がってロボットに変身するようなもの」と、独特の表現で話している。つまり、それだけのインパクトがあり、聴く人によっては様々な印象を与えるということだろう。たしかに、ファンキーな先行シングル「レモン」なんかは、ゲスト・ボーカルを務めるリアーナの良さを見事に引き出しているという声もあれば、彼女のイメージとは違うという、やや否定的な意見もあったりする。個人的には、彼女の本質が見事に発揮されていると思うが……。

 「レモン」で軽快なラップを披露したリアーナの他にも、超豪華なゲストたちが参加している。両者とも今年リリースした新作が話題となった、グッチ・メインとワーレイの2大ラッパーがタッグを組んだ「ヴォワラ」は、良い意味で彼ら“らしからぬ”、ヒップホップの枠を超えたファンク・チューン。4月発売の『DAMN.』が2017年の全米年間アルバム・チャート首位を記録したケンドリック・ラマーの「ドント・ドント・ドゥ・イット! 」では、『DAMN』では決して表現しなかった、ラマー氏の革新的な一面が垣間見える。M.I.A.も加わった「カイツ」も、ケンドリック・ラマーっぽくもM.I.A.寄りでもなく、N.E.R.Dの音楽を彼らが楽しんでいるという感じだ。エド・シーランが参加した「リフティング・ユー」にいたっては、何とレゲエに挑戦。フィーチャリング・ゲストのクレジットを見なければ、エド・シーランだと気付かない人も多いのでは?暴動の映像がミュージック・ビデオとして使われたフューチャーの「1000」や、同じ時代を駆け抜けた、アウトキャストのアンドレ3000参加の「ローリネム・セブンス」など、アーティストの特性が活かされたナンバーもあるが、ゲストに敬意は払いつつも、~(誰)っぽくアレンジしたりはせず、媚びない姿勢を貫いている。

 初期のN.E.R.Dを彷彿させるファンク・ロック「ディープ・ダウン・ボディ・サースト」や、脳内をリフレインする「ESP」、不安定なサウンドの「ライトニング・ファイア・マジック・プレイヤー」、アルバム中最もご機嫌なナンバー「シークレット・ライフ・オブ・タイガーズ」など、ゲスト不参加のナンバーも秀逸。これだけの傑作ながら、それでもまだ彼らの可能性は枯渇していないと確信させられるから凄い。次は、何年後にN.E.R.Dとしての新作が聴けるのか……。

Text: 本家 一成

◎リリース情報
『ノー_ワン・エヴァー・リアリー・ダイズ』
N.E.R.D
2017/12/15 RELEASE
2,376円(plus tax)