いつもバッグに入れて持ち歩いている、キヤノン パワーショットS100。黒のボディーと小さなストロボがかわいいという。カメラケースには色とデザインがよく、また液晶を保護するためにも厚手のフェルト生地が最適だというアビタックスのポケットを使用している
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友人の陶芸家が贈ってくれたという花瓶に生けられた草花。カーテン越しの逆光でとらえられた草の緑に花の紫、陶器の青、背景の白に薄い影がなじんで美しい作品になっている
茶道の稽古の前に手を清めるためのつくばい。水面の映り込みや石、竹の質感が美しく、凜とした雰囲気が伝わってくる
空に淡く浮かぶ月と夕日でUFOのように光っていたというビル。こうした日常的な写真はブログに掲載され好評だ

――カメラ歴を教えてください。

 中学生のときにロンドンにホームステイすることになり、ミノルタの一眼レフを買ってもらったのが最初です。もともとファインダーをのぞいてピントを合わせたり、シャッターを切る感触や音が好きだったんです。夜眠れないときに「なぜ写真は写るんだろう」と勝手に妄想したりする少女でした(笑)。中学では写真クラブに入り、暗室作業や代々木公園に撮りに行くのも好きでしたよ。自分で思い切って買ったのは、社会人になってから。ライカM6TTLで、35ミリレンズと合わせてレモン社で買いました。合計で40万円を切るぐらいだったかな。いっぱい失敗しましたよ。フィルムを巻上げていないのにフタを開けちゃったりとか、露出を失敗して真っ黒になってたりとか。知人から「露出がむずかしいリバーサルより、モノクロで撮ってみれば」とアドバイスを受けて、ようやくなんとか思うものが撮れるようになりました。写真を学んだことがないので露出とか構図とか、ライカで遊びながら勉強していったように思います。

 またアルティザン&アーティストからは、ライカ専用ポーチもデザインさせていただきました。同社の社長と知り合い、「カメラバッグはどれも大きいので、女性用のバッグに入れられるような専用ポーチがほしい」と訴えたら、「じゃデザインしてよ」と言われたんです(笑)。もう販売していないんですが、たまたま広尾の交差点で使っている方を見かけて、「それ、私がデザインしたんですよ」って話しかけちゃったこともあります(笑)。ライカ以外では、リコーGR10がすっごい優秀で大好きです。カメラは10台くらい買ってるかなぁ。今はキヤノン パワーショットS100を愛用しています。常時かばんに入れておける軽さと小ささで、使いやすいので気に入っています。

――主にどんなものを撮りますか

 美しい風景などを見たときに、独り占めするのではなく、「誰かと共有したい」と思ったものを撮るようにしています。自分のためにというより、誰かに見せたいから撮る。子どものころからずっとそうで、中学生のときにホームステイしたときも、記録とか記念写真というより、パンクファッションの人など日本にない光景ばかり。「見て見て! 日本と違うよ」という感じで撮っていました。だから自分の写真があまりないんです。食べ物からわき立つ幸福感が好きで、料理を自然光で撮ることも多いですね。写真の多くはブログにアップしています。幸福感は探しに行くものではなくて身近にあるものだと思うので、それを私の写真で感じてもらえたらいい。夕焼けがきれいだとか、今日は上手にお芋が蒸かせたとか、日常的な写真です。でもそれが好きと言ってくださる方がいて、うれしいですね。

 好きな写真家は、エリオット・アーウィット。有名な車のドアミラーに映ったキスの写真(「Santa Monica,California 1955」)が大好きで、個展で来日されたときに並んでカメラケースにサインをしてもらいました(笑)。あんな柔らかいすてきな写真を撮る人なのに意外と気むずかしそうな雰囲気で、興味深かったです。

――茶道家でもありますが共通点は?

 写真は写真でしか見られない世界があると思うんですよ。実際に肉眼で見た対象より、露出などを調整して写真で切り取った一枚のほうがすばらしいときがある。茶道も、日常とは違った角度からものを見せてくれたり、感覚を与えてくれます。そういう世界観が、写真と茶道は共通するのではないかと考えています。また美しい点前のためには技術の訓練もやはり大事で、写真も人に感動させたいためには「お作法」が大事というところも同じですかね。

※このインタビューは「アサヒカメラ 2012年4月号」に掲載されたものです

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