予告のレーベル特集、どういう順番でご紹介しようかと考えた。著名な順なら、第1回はブルーノート辺りが妥当だろう。しかし、知名度が下がってくると、いったいどっちが上なのか判然としなくなるのは目に見えている。そこで一番明確に順序がつけられるのは設立年代。ということで古い順にご紹介することにいたしました。
コロンビアはいわゆるメジャー・レーベルで、世界で最初のジャズ・レコードと言われた1917年録音の『オリジナル・デキシー・ランド・ジャズ・バンド』を出したことでもわかるように、ビ・バップ以前のカタログも充実している。しかし日本のジャズファンはおおむねバップ以降にしか関心がなく、加えてレコード会社もまたあまりこの辺りを熱心に再発、紹介しようというようにも見えず、結果として「宝の持ち腐れ」状態だ。
それでも超ビッグ・ネーム、マイルス・デイヴィス以下、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、そしてウェザー・リポートと、いわゆるマイルス門下生を完全にカヴァーしており、60年代から70年代にかけてのジャズ・シーンを語るには外せないレーベルだ。加えてセロニアス・モンクにバド・パウエルとくれば、これはもう鬼に金棒。
しかし丹念に検証してみれば、前回ご紹介したとおり、いかに悪条件とは言え先にマイルスに声をかけたのはプレスティッジだし、モンクはリヴァーサイド、そしてパウエルだってヴァーヴ、ブルーノートの方が吹き込みは古い。要するにコロンビアは大会社だけにある程度有名になってからでないと契約しないのだ。
その結果、ジャズ喫茶ファンに人気のジャッキー・マクリーンやらリー・モーガンらはプレスティッジ、ブルーノートに先を越され、いわゆるハードバッパーのアルバムに手薄感がある。それだけが理由ではないだろうが、会社としての規模、歴史の割にはジャズ3大レーベルには挙がって来ない。そしておそらく4位5位まで下がってきても、ヴァーヴやらアトランティックに水をあけられそうだ。
といった若干ネガティヴな評価もありつつ、やはりコロンビアらしく、かつあまり知られていない「隠れ名盤」をご紹介しよう。当然マイルスもの、ウェザーなど皆さんご存知のものはパス。で、意外かもしれないけどハンコックの国内制作にちょっとした傑作がある。象さんの剥製みたいなものを子供達が眺めるジャケットが印象的な『ダイレクト・ステップ』。個人的には、キーボードを駆使した70年代ハンコックの総決算的な作品だと思っている。
そして同じハンコックの『ハービー・ハンコック・カルテット』は、あのウィントン・マルサリスをロン、トニーのマイルス一家が徹底的に絞り上げ、「マルサリスらしくない」名演をやらせちゃったお手柄盤。(その頃の)新人では、やはりアーサー・ブライスをメジャー・デビューさせた功績は大きい。個人的愛聴盤は『イリュージョン』。
伝統ものに目を向ければ、けっこう好きなのが「ワン・アンド・オンリー」の枕詞とともに紹介されるエロール・ガーナーの『コンサート・バイ・ザ・シー』で、《イッツ・オールライト・ウィズ・ミー》はやはり名演。そしてなんといっても、晩年のバド・パウエルの陰影の美、枯れた味わいがたまらない『セロニアス・モンクの肖像』は誰にでも自信を持ってオススメの一枚です。