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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は「スピリチュアルな話」について。

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 かつて勤めていたお店で呑んでいたところ、見知らぬ女性客たちに声をかけられました。私は人と待ち合わせをしていたのですが、早く着いてしまっていたこともあり、彼女たちの席で1杯だけ頂く流れに。

 なんでもその中のひとり曰く、懇意にしている“スピリチュアル系の人”から、事あるごとに「あなたの斜め上にはミッツがいる」と言われ続けており、「今日ここに来れば会えるはず」と確信した彼女は、別の友人らを連れて来店したとのこと。しかも、私がすでにその店にいないのは承知の上で、それでも「今日なら会える」と思ったというのだから驚きです。

 似たような話は、店にいる当時からよくありました。「あなたの後ろにOLが列を成して順番待ちしている」とか、「テレビから私だけにメッセージを送ってくれているので会いに来た」とか、極めつきは「ダイアナ妃の事故死も、クリントン大統領の不倫も、すべて自分が宇宙からの指令を受けて仕組んだが、今は自分が命を狙われている」なんて人もいました。

 このようなお客に遭遇した時、注意していたのは「相手に今以上の期待を持たせない」ということ。せっかくのお客様でも、スピリチュアルな話に乗り過ぎてしまうと、相手の思い込みが増幅し、場合によっては過度な依存をされることがあるからです。一方で、過剰な拒否反応や不信感を見せるのも、謂れのない逆恨みに繋がる可能性があるため、正直すごく気を遣います。今回の人たちにはその心配はなかったものの、そもそも知らない女性の背後や斜め上で、私はいったい何をやっているのか。私が勝手に「居る」ことで、彼女たちの中では「ミッツとの物語やヒストリー」が日々進展しているわけで、怠け者としては非常に楽ですが、それは私の生業である客商売とは違う気がします。

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