■多くの不安要素

 確かに、朝鮮中央通信が公開した2月17日のスポーツ大会の観戦写真では、正恩氏の横にジュエ氏が座っていた。与正氏は2人の後方に小さく写っていた。ロイヤルファミリーを支える「赤い貴族」たちに、だれがキョッカジ(脇枝)なのかを認識させる狙いがあったと言えそうだ。

 ただ、北朝鮮は、奥の院での権力闘争にかまけている余裕が十分あるとは言えない。韓国統一省は2月21日、北朝鮮の一部地域で餓死者が出ているとの見方を示した。北朝鮮は制裁や新型コロナウイルス、災害などで食糧生産量が減り続けている。北朝鮮は今後、6月くらいにジャガイモの収穫期を迎えるまで、「春窮期(チュングンキ)」と呼ばれる、食糧事情が厳しい時期を過ごすことになる。

 北朝鮮が2月末、農業問題だけを取り上げる党中央委員会全体会議を開いたのも、極めて異例な出来事だ。別の脱北者は「ミサイルを撃ち続けているのは、常に強硬姿勢を示していないと、高位層の支持が得られないのではないかという正恩氏の不安感の表れではないか」と語る。

 韓国政府は、北朝鮮が「人工衛星運搬ロケット」と称する長距離弾道ミサイルを発射する可能性が濃厚だとみている。7回目の核実験の可能性も依然残されている。

 米韓両軍は3月、大規模な野外機動訓練を実施する。4月には米国のマッカーシー下院議長が台湾を訪問する可能性がある。中国が昨夏に続き、台湾周辺で大規模な軍事演習を行えば、東アジアは極めて不安定な状況に陥るかもしれない。(朝日新聞記者/広島大学客員教授・牧野愛博)

AERA 2023年3月13日号

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