楳図かずおの漫画『漂流教室』なんかを連想させるSFっぽい設定。綿矢りさ『大地のゲーム』は21世紀末を舞台にした近未来小説だ。
〈あの夏の日、未曾有の大地震が私たちを襲った。そして、また一年以内に巨大な地震が来ると政府は警告している〉。7万人の命を奪った大地震。大学では語り手の「私」や「私の男」をはじめとする大勢の学生が寝泊まりしている。防災法の規定で学内での待機を命じられ、〈混乱と余震の続くなか、私たちは大学のなかに閉じ込められた〉のであった。
 原子力エネルギーはすでになく、蓄電技術の発達で国の機能は保たれているものの、国力は落ち、貧富の差も寒暖の差も激しくなり、平均寿命は70歳前後まで落ちている。
 非常事態下のキャンパスには「反宇宙派」という政治団体とも新興宗教ともつかぬグループが生まれ、「リーダー」と呼ばれる男子学生のアジテーションが視線を集める。〈私たちが今回、痛切に学んだのは、誰も何も知らなかった、ということです。(略)でも対策を取れなかった指導者に対して怒り、絶望しても、命が助かるわけではありません〉
 政治的無関心のなれの果てか、これが究極のサバイバル術なのか。怒らない若者たちの物語なのだ。こんな状況下でも学生たちは学祭の準備に余念がなく、「私」の興味が向いているのは「私の男」とリーダーとマリという女子学生をめぐる四角関係的な恋愛である。同世代の男女しかいない大学という閉鎖空間。
 ひとつ印象的だったのは〈私たちはもともと“明るすぎる街”を知らない〉というフレーズである。何万ドルの夜景などが売り物だった「明るすぎる街」は何世代も前の話であり、「私」が見慣れた夜景はほとんどが夜の闇に支配された世界。〈貧相だともさびしいとも思わず、とにかくそれが普通だった〉。
 繁栄を知らない時代の子どもたちは可哀想。こうなるのがイヤで、みんな経済発展に血道をあげているのか。そういう意味ではリアルかも。

週刊朝日 2013年10月25日号