面白くてたまらん。水木しげるロードといえば有名な商店街だが、ここが誕生してから有名になるまでの話がとにかく面白い。
 鳥取県境港(さかいみなと)市の商店街に当地出身の水木しげるのマンガに登場する妖怪の銅像を設置する、という計画が持ち上がったら、反対の声が巻き起こった。前例も成功例もない、銅像を置くと車道が狭くなって駐車スペースがなくなり来店者が減る、妖怪なんて気味悪い。反発があまりに強いので部分的に銅像設置したら、そこが人気になった。そうすると「妖怪なんて気味悪い」と反対してた商店主が「なんでウチの店の前にはないんだ、不公平だ」と言い出したという。実にありそうな話で笑う。
 著者は地域再生プランナーで、住民が主体的に持続可能な町づくりにかかわろうとするスローシティ運動の提唱者だ。「こういう(身勝手で)困った人たちを含めて『協力者を増やす』ことが、本物の成功に辿りつく過程で、非常に重要となります」と書いていて、その道のりの遠さに目が眩む。不景気になればなるほど小ガネ持ちは強欲化していく、という私の説が実証された気分だ。そんな強欲連中と話し合いを続けるのはイヤだなあ。それをイヤがらずにやった境港市長はえらいなあ、と感心する。
 もう一つ面白かったのが、『ゲゲゲの鬼太郎』より人気のあるマンガやアニメなんていくらもあるわけで、そういうもので水木しげるロードの二番煎じをしてもうまくいかないことだ。その理由は、たとえば『名探偵コナン』だと主要登場人物は十数人なので銅像十数体でネタが尽きる。ところが『鬼太郎』には妖怪が大量に出てくるので設置ロードも長くなるのだ。「やってみてはじめてわかる落とし穴」である。
 水木しげるロード以外にも、全国各地の商店街の成功例失敗例が紹介されている。ただ、この著者は、商店街再生の手段としての「ゆるキャラ」に妙に甘い気がする。ゆるキャラ依存の商店街なんかいかにも失敗しそうだが。

週刊朝日 2013年10月25日号