「工芸」という言葉の解釈は、難しい。例えば、同じ碗でも普段使いの「実用品」があれば、美術館に飾られ「美術品」として扱われるものもある。この線引をどこにするかは、人それぞれだ。
僕は自分自身の〝線〟を、自分が「使いたくなるかどうか」で引いている。どんなに高名な作者の歴史ある作品でも、「これで茶を飲んでみたい」と思えば実用品である「工芸品」であり、そうでなくただ見て美しいと思うものは「美術品」だと思う。もちろんそのどちらが上とか下とか、どちらが正しいとかという考えはない。
この夏、金沢で行われた「第2回金沢・世界工芸トリエンナーレ」は、そんな「工芸とは何か」を改めて考える機会になった。金沢21世紀美術館の秋元雄史館長が中心になって開催しているこの工芸トリエンナーレの今回のテーマは、「工芸におけるリージョナルなもの」。会場となった21世紀美術館では、アメリカ、オーストラリア、台湾、日本それぞれの工芸を展示していて、その相違を見ることができた。
僕が訪ねたときは、アメリカのサンタフェ・インターナショナル・フォークアート美術館のキュレーター、ニコラサ・チャベスさんが実際の展示物を見せながら来場者に説明をしていて、とても興味深かった。
「今回展示しているのは、アメリカにもともと住んでいたネイティブの文化と、その後持ち込まれたスペイン文化がミックスしたものです。カトリックとその土地土地に根付いた宗教、神話が混ざり合って独特の文化を生み出しました」(チャベスさん)
彼女が使う工芸を表す言葉が「フォークアート」であり、「クラフト」ではないという点が興味深い。彼女にとっては、その土地固有の文化、民族性(folk)が表れているものが工芸なのだろう。実際展示されていたのは、銀細工や織物、木工細工など。そのいずれも高度な技術で作られている。そして驚くほどに日本の工芸との共通点が多かった。
「工芸とは生活のために生まれたもの。だから素材は身近な植物や土になっていく。これは地球上どこでも共通しています。人間の構造も同じですから、使い勝手を追求すると同じような形になる。色柄などには地域性が出ますが、素材や形は共通のものが多い。そこが工芸の面白いところです」(秋元館長)
僕はチャベスさんや秋元館長の話を聞きながら、「工芸」という言葉の意味も考えた。ヨーロッパでは「クラフト」という言葉のほか「アルチザン」という言葉も使われる。将来的に、自分がやっている「工芸」の活動を世界的に広げていきたいと考えているが、その時に使う言葉は何が正しいのだろうか? 「工芸」でいくべきなのか、それとも「クラフト」? または「アルチザン」? あるいは、「ハンドメイド」?
今は日本の旅をしているが、将来的には、世界の職人の工房をまわってそんな言葉の持つ意味も考えてみたいと思った工芸トリエンナーレだった。