パリの国際機関で働いていた著者はある日、バングラデシュの職員から「バウル」という謎の民の話を耳にする。彼らの歌は数百年にわたって口頭伝承され無形文化遺産にも登録されていながら、居場所さえわからない。その歌詞にはバウルの哲学が暗号のように埋め込まれているという。バウルの歌を求めてバングラデシュの深部に旅した12日間の記録。
 当時、バングラデシュはガイドブックもほとんどなく、手がかりはゼロ。当たって砕けろと、現地で偶然出会ったミュージシャンやバウルの歌を愛する人々、バウルから尊崇を受ける「グル」たちに歌の意味するものは何か、バウルとは何か、次々に疑問をぶつけていく。
 バウルの哲学を探す著者の目はヤジ馬的であきれるほど哲学的でないが、実に素直に現実をとらえる。グルが人々におごそかに与えるシッディ(大麻)の入れ物がポテトチップの缶なのにあぜんとし、俺が俺がとみなが歌い続けるバウルの祭りは、NHKののど自慢みたいだと書く。深遠なるものと俗な人間臭さが生活の中に違和感なくとけあう民の不思議を、鮮やかに切り取っている。

週刊朝日 2013年5月3・10日合併号

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